著者
富永 真樹
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.1-16, 2016

<p>泉鏡花『日本橋』は書き下ろしのかたちで大正三年九月に刊行されたが、その装幀を担当したのは日本画家・小村雪岱である。本論の目的は小説、装幀の分析を通し『日本橋』の書物としての意義を考えることにある。鏡花による小説「日本橋」は女たちが重なり合うことによって展開する作品であるが、そこには女たちの「情」への意志があった。雪岱による見返し、表紙・裏表紙は一見すると自律したものとして成立している。しかし小説と照らしあわせてゆくことで、雪岱が特定の場面を描くことを避け、物語が持つ論理そのものの風景を描いていることがわかる。書物史に名を残す鏡花・雪岱の『日本橋』は、作品の論理及び時空を、見事に書物というモノとして体現してみせたのである。</p>