著者
植木 健至 寺山 保彦
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.42-48, 1955-11-30

前報において, 低水温灌漑が水稲の生育収量に好影響を与えることを報じたが, 本年度はかかる現象に対し, 栄養生理的な検討を行うべく, 生育時期別に稲体有機成分を分析した.処理方法の大要は前年同様であり, 得られた水温は貯溜区(対照区)最高29〜34℃, 平均約27℃で掛流区最高24〜27℃, 平均約24℃であつた.なお掛流処理期間は7月27日〜9月30日迄である.実験結果は次に示す通りであつた.1.乾物重 : 伸長期より登熟期にかけて, 根, 茎葉, 穂と順次に掛流区が大となつた.2.登熟中期に至る迄, 茎葉部においては掛流区の粗蛋白含有率は貯溜区よりも常に高く, 澱粉含有率では全く逆の傾向を示した.3.幼穂形成期より出穂直後にかけて, 掛流区において株当粗蛋白含有量著しく大で且つ, 全糖含量もやや勝る傾向がみられた.粗澱粉含量については分蘗期には貯溜区が大であつたが, 出穂後は粗繊維と共に掛流区が凌駕し, 殊に穂部澱粉において著しい差異がみられた.以上掛流区における増収の過程を推察すると, 幼穂発育期において根重の増加に伴い, より多くの窒素を吸収し, これが一方では1穂粒数の増加をもたらすと共に, 他方では二次的に出穂後の光合成等を盛にし, 穂への多量の澱粉蓄積を可能としたと思われる.なお本年度も前報同様, 稈長, 穂長, 1穂粒数, 株当籾重等の区間差を認めえた.