著者
小南靖弘
出版者
農業技術研究機構中央農業総合研究センター
雑誌
中央農業総合研究センター研究報告 (ISSN:18816738)
巻号頁・発行日
no.6, pp.15-49, 2005-03
被引用文献数
1 1

4寒候期にわたって積雪層底部におけるCO2濃度の連続測定を行うとともに,積雪層内をCO2が移動する各プロセス毎に実験・検討を行い定量化した。積雪の分子ガス拡散係数は,土壌と大気との間のガス交換に対する抵抗としての働きを評価する基本的なパラメタである。これを測定するために,非定常拡散理論に基づく分子ガス拡散係数測定装置を開発した。まず絶対値精度および境界条件の確からしさに対する検定を行った後,新雪・しまり雪・ザラメ雪の3種の自然積雪について測定を行い,相対拡散係数D Rを積雪気相率の一次式とする実験式を得た。積雪表面上を吹く風によって積雪層内の空気が乱され,積雪内と大気との間のガス交換が促進される。この効果を見積もるために,渦相関法によって観測した大気中のCO2フラックスと積雪層内のCO2濃度勾配より,積雪内の乱流ガス拡散係数を得た。さらにこれを風速および積雪深の関数として求める推定式を作成した。積雪表面で生じた融雪水が積雪内を流下する際,積雪間隙中のCO2が溶解されるため,融雪期には積雪層内のCO2濃度は低下する。この溶解の効率を表わす指標として,輸送理論から導かれる溶解係数α'を導入した。積雪層底部CO2濃度および融雪水中の溶存CO2量の測定値よりα'の平均的な値を求めた。以上のように検討した各プロセスを統合して,積雪内のCO2濃度を再現する数値モデルを構築した。モデルは土層と積雪層から成る2層の一次元モデルで,積雪深・積雪重量・融雪量・風速,および別途見積もったCO2発生強度(土壌呼吸活性)を入力し,積雪内の任意の深さのCO2濃度,あるいは移動量を出力する。先に述べた4寒候期の連続観測のデータと比較した結果,良好な一致が見られた。本モデルおよび各プロセスの検討結果は,CO2にとどまらず,積雪と大気との各種物質交換に広く応用しうるものだと思われる。