著者
小寺 敏雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.19, no.12, pp.1471-1478, 1967-12-01

腟トリコモナス (以下腟トと略す) に関しては従来より形態学, 病原性, 感染経路, 治療など多くの研究がなされて来た. 特に本症の難治性が問題点であったが新薬の開発とその内服療法により今では解決されたかに思われる. しかし腟トの感染率は成熟女性の約1割に達し, 本症に悩む女性は減少していないのが現状である. 腟トと子宮腟部癌の関係を指摘する研究者もあり, 本症を減少させるためには感染経路を確立して一般女性を広く啓蒙する事が必要であると考えられる. 著者は性交感染, 入浴感染, 病院内感染について臨床的, 実験的に各々の感染経路の可能性及び重要性を検索し次の結果を得た. 1) 性交感染 : 少年鑑別所に収容された少女 (非行少女) を実験対称とした. これら少女の過去の性的な既往を調査すると共に腟内容について検鏡及び培養法により腟ト感染の有無を検索した. 成績は115名中55名に腟ト陽性で48.7%と高率を示し, 過去の性関係が多い程感染率は上昇する傾向を示し, 性経験のない7名には腟トを認めなかった. その結果これら非行少女の腟ト惑染は性行為によるものであり性交感染の重要性を立証したものと考えられる. 2) 病院内感染 : 入院患者について入院時及び退院時に検鏡法, 培養法により腟ト感染の有無を検索した. 実験期間中の入院患者には12.4%の腟ト感染者を認めたが, 入院時腟ト陰性で期間中に退院した116名中3名に病院内感染を認め, 病院内感染が実際に起り得ることを立証した. 3) 浴場感染 : 温水に対する腟トの生存力を実験し, さらに市中の公衆浴場より腟ト検出を試みた. 腟トな37℃の温水に入れると温水の量を増す程生存期間は短縮し, 又入浴温度41℃では腟トは更に短時間で死滅する事が判った. この結果実際的に浴槽内より感染が起る事は不可能と考えられる. 公衆浴場よりの腟ト検出は出来なかったが洗場での接触感染は否定出来ない.