著者
小谷 澄夫
出版者
関西医科大学医学会
雑誌
関西医科大学雑誌 (ISSN:00228400)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.582-600, 1970-12-20 (Released:2013-02-19)
参考文献数
49

心臓外科とくに直視下心臓手術の最近における発展と普及にはめざましいものがあるが,これは診断技術や手術手技等の向上とともに,手術の補助的手段とくに体外循環や低体温法等の改善に負うところが大きい.しかし体外循環法や低体温法がいかに改善されても,その営む呼吸や循環は所詮は非生理的なものであり,長時間にわたる施行は生体に対して生理学的および生化学的な種々の障害を惹起しうることは明らかである.これらの障害のうち,体液の酸塩基平衡障害としてのアシドーシスは不適正な体外循環操作により1次的にも発生するし,また種々の原因による代謝異常の結果として2次的にも発生するものであるが,いずれにしても惹起されたアシドーシスはさらに心循環機能および全身機能に悪影響を及ぼし,一連の悪循環を形成することが臨床的に知られている.アシドーシスの心循環機能におよぼす影響に関しては従来も若干の報告をみているが,呼吸性および代謝性に関する両者の比較等については業績も乏しく,現在なお一致した見解をみるに至つていない.また,先に教室の高橋は心臓手術前後における心筋のジギタリス耐容度の変動を臨床的および実験的に検討し,その変動の1次的原因が代謝性アシドーシスにあることを推定しているが,これもアシドーシスと心筋機能との関係についての定量的な検討を行なうには至らなかつた.著者は心筋機能とくにその収縮性および興奮性におよぼす代謝性および呼吸性アシドーシスの影響を心筋収縮力,心筋ジギタリス耐容度および心室細動閥値の面から定量的に検討を加え,若干の知見を得たので報告する.