著者
小野 記彦
出版者
日本遺伝学会
雑誌
遺伝学雑誌 (ISSN:0021504X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.269-274, 1955 (Released:2007-05-21)
参考文献数
4

1. ヤクシソウとワダンとの雑種は自然に存在するヤクシワダンとよばれるものもあるが, 人工的につくつた雑種もだいたいこれと同じものになる.2. この雑種の減数分裂における対合は特異であり, 染色体形態の異るにもかかわらず, 常に 5IIがみられる. その子孫においては染色体の配分がいろいろとみだされるが, 中期では5個の Configurationsを示すものがもつとも多く見られた. しかしより早い時期では, Configurations の数の減少, すなわち多価染色体が多く見られた. このようにはじめに結合していて中期に進むにつれて解消するような結合を残余対合 (residual pairing) とよんだ.3. 自然雑種は新しい種の出発点となり得るかどうかはいろいろの考えがあるが, 属間雑種のように両親の形質が遠いものでは, 二次的安定種がつくられる可能性が示された.4. ヤクシソウとアキノノゲシとの雑種では染色体数が一定しないで 10~14 のいろいろの数の細胞が一つの根においてもキメラになつているのがみとめられた. しかしその中で12のものが, もつとも多く, しかも得られた9個体において, このことは常に一定であつた.5. 同じような染色体の分断消失による減少はヤクシソウとアゼトウナとの雑種, ワダンとアキノノゲシとの雑種においても見出される. しかもいつでも分断消失する染色体は父方のものである.6. 自然にもこのような雑種がみられるが, アゼトウナ自然集団の中から採集された自然雑種においても同じように染色体の分断消失がみられる.7. 自然集団の中には 90% 以上の高い稔性のもののみの集団と 20% ぐらいのひくい稔性のものをふくむ集団とがある. 前者は古くできた雑種集団であり, 後者は新しくできた雑種のふくまれる集団であると思われる.