著者
寒川 典昭 山下 伊千造 南 志郎
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木史研究 (ISSN:09167293)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.251-262, 1992-06-05 (Released:2010-06-15)
参考文献数
15
被引用文献数
1

治水計画を策定するとき, できるだけ過去に遡って洪水流量データを収集すること, 及び将来の気候・流域場の変化を正確に予測すること, の両者から将来の洪水流量の規模を推定することが望まれる. ここでは歴史的な意義及び前者の目的のために, 千曲川の下流にある, 妙笑寺, 赤沼, の2地点で, 7つの歴史洪水が残している最高水位を手がかりとし, マニング式を用いて最大流量の復元を試みた. ただし, 流積と径深は堤外地では河道横断面図, 堤内地では国土基本図, 動水勾配は河道縦断面図, 河道内の粗度係数は正式な流量記録のある最近の洪水時の最大流量, をそれぞれ用いて推定し, 氾濫原の粗度係数は仮定した. 復元結果は, 仮定した粗度係数の値により変動するが, それを0.100とすると3大歴史洪水での概略推定値は砂笑寺, 赤沼, の順に,(1) 1742 (寛保2) 年洪水で18, 500m3/s, 21, 400m3/s,(2) 1847 (弘化4) 年洪水で8, 000m3/s, 8, 500m5/s,(3) 1896 (明治29) 年洪水で8, 400m3/s, 11, 200m3/s, となった. 尚, 砂笑寺, 赤沼よりやや下流の立ケ花地点でも同様の復元を行っているが, 水位基準点の標高の信頼性に問題があるため, その結果を参考資料に留めている. 上述の歴史洪水の発生原因は,(1),(3) は豪雨,(2) は地震による河道のせき止めであった. また, 洪水発生時の降雨・流出の時系列的追跡から, これらの推定流量値の妥当性が伺われた. 得られた成果は, 歴史的な意義と共に千曲川の治水計画, 現場での洪水制御に重要な情報を提供するものである.[歴史洪水, 最大流量の復元, 千曲川]