著者
右田 真里衣 山崎 哲司 佐藤 史子
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.285, 2012 (Released:2012-11-07)

【目的】進行性核上性麻痺(以下PSP)によりすくみ足が著明で認知機能低下のある方に、在宅でレーザー杖を工夫し単独移動時のすくみ足が軽減したため報告する。尚、報告にあたり書面で本人、ご家族に説明し同意を得た。【方法】症例は84歳女性。平成19年PSP診断。認知機能(注意・記憶)低下有り。ADL自立。移動は主に4点杖歩行や伝い歩きで、すくみ足が著明。その為トイレに間に合わず洗面器に排尿有り。トイレまでの平均移動時間は2分43秒であった。日中は単身状態で移動の介助は得られず、歩行の改善を目指した。すくみ足改善に向け開始前動作や視覚刺激を検討した。開始前動作(足を高く上げる等)は効果はあるが、介助者の促しが必要であった。視覚刺激(床にテープ等)は、直後の効果はあるが数日後には無効であった。次に既製レーザー杖を試行した。これはスイッチを押すとレーザーが床面に出るT字杖で、すくみ足の方に効果がありパーキンソン病友の会で販売されている。しかし、介助者の促しが無いとレーザー杖を使用する事やスイッチを押す事が行えなかった。また、本人にとってやや前方にレーザーが出る為、その距離が却ってすくみ足を助長する事等があり、既製レーザー杖をそのまま適用出来なかった。その為、臨床工学技師の協力で、以前から使い慣れている4点杖にレーザーを取り付け、グリップを握ると本人に合った位置にレーザーが出るよう調整し導入に至った。【結果】本人用のレーザー杖を使用した時の平均移動時間は35秒となり、すくみ足が軽減してトイレに間に合うようになった。また、9週間後にも効果が持続していた。【考察】PSPにより認知機能低下のある方がすくみ足を改善する為には、身体機能だけではなく生活環境の確認も重要であり、今回の症例は自宅内を単独移動する事から、介助者の促しが無い状況で行える事が必要であった。しかし、常に生活環境上にある視覚刺激では効果は持続しなかった。これに関する研究論文等での報告は確認出来なかったが、慣れると注意が向けられず効果が持続しなかったと考える。効果を持続させる為には必要時のみ視覚刺激となるレーザー杖の適応があると考えたが、既製レーザー杖では身体機能的にも生活環境的にも本人が使いこなす事は困難であった。その為、既製レーザー杖を参考にしながら、本人に合わせて操作手順を減らす等の工夫をした事が、レーザー杖の有効性を高めすくみ足の軽減に繋がったと考える。【まとめ】PSP者にレーザー杖を工夫した症例を経験し、身体機能だけではなく生活環境をみる事や、その方に合った用具に工夫する事の大切さを学んだ。