著者
林田 天 米田 光希 山本 美薫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

⒈ 研究背景・目的日本は世界有数の火山大国である。火山の下にはマグマだまりが形成されているが、その位置を正確に知ることは難しい。そこで、本研究では、地震波形を使ってマグマの位置を推測するため、2段階に分けて検証を行う。まず、火山下を通った地震波がどんな影響を受けるのか明らかにしたのち、その結果を使ってマグマだまりの位置を推測する。今回は熊本県を中心とする九州地方に対象を絞った。2016年に熊本県で大規模な地震が起こったため、余震を含めた多くの地震データを手に入れることができる。また、九州地方の地震波は比較的震の浅いものが多いため、後に記す地震データの選定条件に一致しやすい。2.原理・仮説地震波には初期微動を引き起こすP波と主要動を引き起こすS波の2種類が存在する。P波は個体・液体・気体のすべての物質内を伝播していくが、てS波は固体中のみしか伝播することができない。そのことを考えると、液体であるマグマだまりを通過した地震波は、波形の位相が不明瞭になると考えられる。「波形の位相が不明瞭」というのは、P波とS波の境目がはっきりしないような形になっているもののことをさす。また、断層と垂直方向に進む地震波は波形の位相が明瞭になることが明らかにされている(本多,1954)。つまり、断層と垂直方向に進む地震波で火山を通るものの位相が不明瞭ならば、その地震波はマグマから何等かの影響を受けていると考えられる。しかし断層とおよそ45度方向に進む地震波ではマグマに関係なく不明瞭になることも知られている(本多,1954)ため、今回は区別が明瞭に出るはずの断層から垂直な方向に進む地震波に着目する。この仮説が正しければ、波形が不明瞭になっている地震波から、マグマだまりの位置や深さを推測することができる。2.研究内容 ⑴ 検証1:火山下を通った地震波がどんな影響を受けるのか明らかにする。 ・方法 ①気象庁HP内の「震度データベース検索」を使い、以下の条件を設定して研究に使用できる地震を探す。この時、九州地方の火山の分布を調べておく。・M3以上であること ・震源深さが30km以下であること・九州地方の陸地で発生した地震であること・震源地から観測点に地震波が到達するまでに、火山下を通過すること マグニチュードの制限は、規模が小さく波形の位相がもともと不明瞭になりやすい地震を選ばないようにするために設定した。震源深さについては、深さおよそ30kmの位置にはモホロビチッチ不連続面があり、その面を境に波の性質が変わってしまうと考えて検証データから省いた。 ②①で集めた地震について、気象庁HPからそれぞれの断層の動いた向きを調べ、断層の動きが比較的はっきりしているものだけを選ぶ。 ③「防災科学技術研究所Hi-net高感度地震観測網」から、⑴,⑵で選定された地震のイベント波形数値データをダウンロードする。 ④③で集められたデータを、WIN2という波形解析専用ソフトウェアを使って解析する。このソフトウェアを使うと、各観測点の波形・震源地情報・震源地と各観測点のマップを手に入れることができる。 ⑤各地震について、位相が不明瞭になっている地震波を選びだし、その観測点をマップにプロットする(図7)。 ⑥断層の方向と比較し、波形が不明瞭になることと火山の存在が関係するかについて考える。・研究結果・考察いくつかの地震で、断層に垂直な波線において、火山を通過する場合に位相が不明瞭になるという感触が得られた。本来ならば位相が明瞭になるはずの断層方向から垂直な波線で、逆のことが起きているということであるから、火山の下のマグマだまりによる影響があった可能性が高い。つまり、仮説通り、マグマを通る地震波は、位相が不明瞭になるということがいえる。この検証結果を使って次の検証を進めていく。⑵ 検証2:マグマだまりの位置を推測する ・方法① 地図ソフトGMTを使用して、北九州地方の白地図を作る。② 波形が不明瞭になった各観測点・震央の位置を、①の白地図にプロットして線で結ぶ。・結果・考察完成した地図を見るだけではマグマだまりの位置を明確にすることはできなかったが,波線が阿蘇山の付近で密度が高くなることは確認できた。5.今後の課題 ⑴ 検証1 データ数が少ないため、さらにデータ数を増やし結果をより強固なものにする。 また、発表の際結果を目に見えてわかる形にするための工夫が必要になる。⑵ 検証2検証1と同様、データ数が少ないためさらにデータを増やす。また、今の検証方法だとマグマの位置を検証することが困難なので、地震データの集め方やデータ処理の仕方を考え直す必要がある。