著者
岡庭 義行
出版者
帯広大谷短期大学
雑誌
帯広大谷短期大学紀要 (ISSN:02867354)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.1-24, 2013-03-31 (Released:2017-06-16)
参考文献数
65

かつて災害研究へのジェンダー視点の導入において先駆的な役割を果たしたEnarson &Morrow(1998)は,社会学や人類学などの多領域からのアプローチにより「災害とジェンダー」研究という新しいフィールドを開拓した。この研究思潮は,我が国の災害研究とジェンダー研究それぞれに多大な影響をもたらし,その浩瀚な研究の蓄積は,防災復興計画や災害行動などにおけるジェンダーの問題を実証的に明らかにしてきたと考えられている。しかしながら,このような研究の前進に比して防災と災害復興の実践において,現在でも著しくジェンダーの視点が欠落している事例は数多い。 阪神・淡路大震災以降,我が国では自然災害と女性の脆弱性・回復力に関する様々な研究,実践,提言が繰り返され,その後発生した新潟県中越地震の被災経験により,我が国の男女共同参画基本計画には防災の視点が,防災基本計画にはジェンダーの視点が広く組み込まれることとなった。一方で,防災と復興の主体である地方自治体や地域コミュニティにおいてこれらの考えや制度が敷衍・浸透し,計画や情報が共有されているかといえば,一概にそうとは言い切れない。本論は,これらの震災の発生以降発表された「災害とジェンダー」研究を概観しつつ,ジェンダーの視点に立って,防災や復興の計画・制度と現場・実践の間に生じる一致と乖離を抽出しながら,特に災害リスクの低減に有効であると考えられるジェンダーのダイバシティを焦点化することで,その現状と課題について検討と分析を試みるものである。