著者
岩本 あづさ 堀越 洋一
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.249-259, 2017

<p><b>背景と目的</b></p><p>  国立国際医療研究センター国際医療協力局は、国際協力機構 (Japan International Cooperation Agency、以下JICA)の委託により、2003年から毎年「アフリカ仏語圏地域母子保健集団研修」を実施してきた。その中で研修員達が、研修中の見聞をそのまま自国へ持ち帰っても、日本と異なる状況の中で現場に適用させることは難しいことが、明らかになってきた。それを克服する方策の1つとして、「母子保健サービスの改善」という中心主題への親和性が高いと考えられた「ラボラトリー方式の体験学習(以下、「体験学習」)を導入した。しかし、研修員の多くは「体験学習」を研修期間全体の学びの手段として意識できず、「体験学習」と「その後の研修プログラム」を別々に捉えてしまい、「体験学習」を十分に活かしていないという課題が事後調査等から抽出された。そのため、2013年度の研修では「体験学習」の方法に工夫を加え、いくつかの新しい取り組みを導入し、研修生が「体験学習」を、研修全期間を通じた学びの方法として意識的に活用できるための工夫を行った。</p><p><b>方法と活動内容</b></p><p>  本研修の参加者は、来日前に自国にあるJICA事務所に提出する「インセプションレポート」を「体験学習」の題材として活用し、グループワークによって全研修員の共通課題を抽出した。また、共通課題の「マトリックス」を全研修員で一つ作成し、分析ツールとして活用した。さらに毎週末、研修のふりかえりの時間を設けた。これら全ての過程において、研修を通じて気づいたこと、感じたこと、学んだことを全員で繰り返し話し合い、合意内容を「マトリックス」内に加筆していった。これらの新しい取り組みにより、研修開始時の「体験学習」が研修全期間を通じた学びの方法として以前より意識的に活用できるようになったと考えられた。また研修員それぞれが「自分達自身が学びのリソースである」ことを意識して、その後のグループワークや議論に積極的に参加し学びを深める機会を増やすことができた。</p><p><b>結論</b></p><p>  仏語圏アフリカからの参加者を対象とした母子保健集団研修に「体験学習」を取り入れ、その活用方法を工夫することで、研修開始時の「体験学習」を研修全期間を通じた学びの方法として以前より意識的に活用できるようになった。また、本研修の「体験学習」から得た「自分を含む自分達自身が貴重なリソースである」という気づきは、自国でのそれまでの働き方を違った視点で見ることができる力にもなると考えられた。</p>