著者
岩田 悦行
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.7-14, 1962 (Released:2017-07-07)

今回,盛岡附近を中心として栽培され,あるいは野生する禾草38種類を選び,それらの葉の横断切片により,機動細胞の形状や発達の程度を検討した。1)これらの機動細胞は,葉身上における配列状態,細胞の由来,脉間部における厚さの比率などによりつぎの8型に分けられた(第1表);第I型上面表皮の各脉間部に位し,表皮および葉肉組織に由来した細胞よりなる。第II型第I型とほぼ同様,但し機動細胞の内側に小維管束が発達する。第III型主脉直上部に1条をなす,表皮および葉肉組織に由来した細胞よりなる。第IV型主脉の両側上面にのみ分布,数個の表皮細胞により形成される。第V型上面表皮より由来,各脉間部に分布し,この部分は強く陥凹する。第VI型第V型とほぼ同様,但し脉間部の陥凹は彼ほど深くない。第VII型第V・VI型とほぼ同様,但し脉間部は平坦かかすかに凹む程度。第VIII型上面表皮に由来した細胞が,脉間部および細脈上にわたつて帯状になる。2)各型の機動細胞と乾湿に伴う葉身の開閉運動の難易を検した。それによると,第I・II型では敏速に巻曲または展開,第III・IV型も敏速に折りたたみまたは展開運動を行つた。第VIII型はほとんど反応なく,第V・VI・VII型では,速かに巻曲するものあるいはほとんど巻曲しないものなど反応の程度が区々であり,それらと機動細胞の大きさ,発達の程度,脈部の陥凹の程度などとはほとんど関係がなかつた。3)禾草の葉身の乾湿に伴う開閉運動は,機動細胞のみならず,葉全体の組織構造,さらに機動細胞およびその周辺の組織細胞の生理的特性が,重大な関係をもつものと見られる。
著者
平吉 功 岩田 悦行 松村 正幸
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.155-162, 1969-11-29
被引用文献数
3

前2報に引続き,和牛放牧が混牧林地内のササに及ぼす影響を調査した。調査地は岐阜県益田郡小坂町滝上牧場の第4牧区で,ここはもと,ミズナラ,ヒノキなどを主とする自然林であったが,その後皆伐され,現在ではカラマツおよびヒノキ苗が植栽されているが,クマイザサの密生はなはだしく,これらの樹苗をおおう程である。この地に1968年5月中旬から10月中旬までの間,和牛76頭が約50haの地積に放牧された。調査は閉放直後に行なわれたものであり,これによって5ヶ月間の夏放牧がこの地の植生に及ぼした直接的影響を知ることができた。調査の結果は次のように要約される。1.放牧によってササは緑葉を失い,その地上部は変形して,ササ型草地としての群落相観は著しく変化したが,未だ新規植物の侵入はみられず,群落組成上の変化の兆は認められなかった。2.放牧地内のヒノキ幼樹(1.5〜2m高)は約15%が食いちぎりによる枝条の折損をみ,カラマツ(1〜1.5m高)では約40%がふみつけによる樹幹基部擦傷の被害を受けた。3.放牧によりササは矮小化の傾向をたどり,その草丈は禁牧区のそれに対して平均約10cm低くなった。特に丈の高いササは稈頂部が折損しやすく,結局放牧区のササでは大体100cm内外の草丈にそろい,草丈の個体間のばらっきは少なくなった。4.放牧区のササは地上40cm以上の高さにある節からの分岐が目立ち,多数の細小枝を生じて,ササの外形は「ほうき状」を呈するようになった。但し地際近い節および地下茎の節からの分岐は未だ認められなかった。5.放牧によってササの成葉はいったん全部採食され,その後新葉の再生と採食が繰返される結果,放牧区では葉数は多くなったが,葉形は極めて小さかった。なお放牧区のササの葉が細長くなる現象は未だ確認されなかった。6.禁牧区のササの現存量(乾重)を測定し,放牧区のそれと比較した。葉量比は前者で約30%に及んだが,放牧区では僅かに1.3%内外で葉量は極めて少なかった。但し後者では稈重が増大しているため,地上部全重は禁牧区で1587.3g/m^2,放牧区で1521.0g/m^2となり,両区かなり近似した値を示した。7.放牧期間内におけるササの再生量が不明のため,現存量測定値から直ちに当ササ型草地での採食量(飼料提供量)を推定することはできなかった。ササの再生量究明は今後の重要課題である。