著者
岸川 俊太郎
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.91, pp.33-48, 2014-11-15

社会から距離を置き、反時代的姿勢を強めていく荷風の大正期は、<江戸回帰>ないし<江戸趣味>時代と称される。しかし、この時期に荷風が発刊した雑誌『文明』、『花月』に連載された『毎月見聞録』には、荷風と同時代との関わりが刻まれている。本論の目的は、『毎月見聞録』を手掛かりに、同時代の荷風の文学活動を再検討することで、荷風の大正期をあらためて捉え直すことにある。『毎月見聞録』を精緻に分析することで、荷風がどのように同時代と向き合っていたか、そして、『毎月見聞録』が大正期の荷風文学においてどのような役割を果たすものであったかが具体的に明らかにされるはずである。さらに、『毎月見聞録』は『断腸亭日乗』とも執筆の期間が重なる。両者の比較から日記をめぐる荷風の文学的営為についても新たな視座が示されることになるだろう。