著者
崔 建植
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.121-107, 2006-01-01

籍帳における同一家族間の人名には、年長者と年少者との間において、「大-小」「兄-弟」などによる長幼の序列に対応した対比的命名の存することが認められる。本稿は、籍帳でみられるこのような命名法が、資料的性格を異にする記・書紀の人名における命名にはどのような様相で現れるのかを調査し、命名のあり方について検討したものである。記・書紀の命名には籍帳ではほとんどみられない「中」が散見されるが、「中」には序数詞的な序列性があり、同じく序列性をもつ「弟」と呼応している。これに対して、美称性を有する「若」の場合は、「大-(小-)若」という対応において、美称性から序列性へと変容していることが認められる。人名(固有名詞)においては、その名に長幼の序列を含む続柄が存在し、そういった人名特有の環境下にあっては、美称性の形態素が、意義的に対応する形態素と共に序列性として用いられることがあると言える。