著者
川越 哲博 鈴木 信彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.673, 2005 (Released:2005-03-17)

植物の性表現や花形質の進化には自殖による近交弱勢が大きな影響を与えてきた。しかし雌雄異熟や雌雄離熟など、これまで自殖回避のために進化したと考えられていた形質が、雄機能と雌機能の干渉の回避にも役立っていることが明らかになってきた。雌雄異花性(雌雄同株)も主に自殖(近交弱勢)を回避するための適応と考えられてきたが、雌雄同株植物の中には自家不和合性を備えているものも多く存在する。自家不和合性植物においては、雌雄異花性の適応的意義は自殖の回避では説明できない。しかし自家受粉すること自体にコストが生じるのなら、両性花と比べて自家受粉を減らすことのできる単性花は適応的である。この仮説を検証するために、自家不和合性の雌雄同株植物アケビにおいて自家受粉のコストを調べるための人為受粉実験を行った。受粉処理は以下の4通り:(1) 自家受粉のみ、(2) 他家受粉のみ、(3) 自家受粉と他家受粉を同時に行う、(4) 先に自家受粉し、その24時間後に他家受粉。自家受粉のみでは結実は見られなかった。他家受粉と自家受粉を組み合わせた2処理では、自家受粉のタイミングに関わらず他家受粉のみの処理と比べて果実生産が大きく低下した。この結果は自家不和合性のアケビでも自家受粉することによって適応度が低下することを示すものである。雌蕊上での花粉管伸長を観察した結果、自家花粉も花粉管を発芽させ、雌蕊中に侵入し、少なくとも一部の花粉管は胚珠まで到達していることが分かった。このような遅延型の自家不和合反応が自家受粉のコストをもたらすと考えられる。本研究の結果は性機能間の干渉が雌雄同株の進化に影響することを示唆するものである。