著者
齋藤 昭子 巣内 秀太郎
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.101-112, 2022 (Released:2022-10-06)
参考文献数
38

HIV感染に対するMen who have sex with men (MSM)の脆弱性は、広く知られるようになったが、社会的立場の弱さから必要なサービスへのアクセスが制限されている。そこで、青年海外協力隊(当時)2名で、MSMを対象とした性感染症予防のためのコンドーム使用を促進するワークショップを立案した。ヘルスビリーフモデルを参考に、コンドーム使用のメリット(感染予防)がデメリットを上回れるよう、性感染症の脅威やコンドーム使用の有効性を認識し、正しい使用方法の習得を促す内容とした。肛門性交などMSMの性行動を考慮した内容にし、ファシリテータはMSMの自助グループのメンバーが担った。  ケニア共和国キリフィ郡で2013年11月から2014年2月にかけて、2時間の1回完結型のワークショップを全13回実施した。会場は、MSM自助グループの活動拠点である公立病院を使用した。スノ—ボールサンプリング法でリクルートし、合計170名が参加した。介入前後で実施した自記式の質問紙調査の結果(有効回答数139)、参加者の平均年齢は26.6歳(SD±6.69)、性自認は男性133名、女性6名で、性指向はゲイ33名、バイセクシャル90名、その他15名、未回答が1名だった。ワークショップの実施前後で、対象者の自尊心、安全な性行為への意思と知識の各平均点が、それぞれ0.83点(p=0.0123)、0.75点(p=0.0006)、0.33点(p=0.0024)上昇した。参加者の感想からは、単に研修内容が身になった、知識を得たというものばかりでなく、MSM向けに用意されたワークショップであることを理解し、「私たち」のコミュニティにとって利益のあるものと受け取った参加者も確認できた。  今回の介入では、170名と多くのMSM参加者を得ることができ、参加者の自尊心・安全な性行為の意思・知識を高めることができた。本介入で多くの参加者を得るために行った工夫は、1)MSMにとって安心安全な環境づくりをすること、2)ピアファシリテータの協力を得ること、3)MSM同士で声を掛け合うスノーボールサンプリング法で参加者をリクルートすること、4)参加日程の選択肢を多く作ること、そして5)MSMの特徴的な性行動(肛門性交など)を踏まえた内容にすること、である。本介入で得られた知見が、他地域においても参加者獲得の一助になると考える。