著者
左 雯敏
出版者
日中社会学会
雑誌
21世紀東アジア社会学 (ISSN:18830862)
巻号頁・発行日
vol.2023, no.12, pp.131-148, 2023-03-01 (Released:2023-03-03)
参考文献数
65

民族研究は費孝通の学術の一つの中心点である。費孝通の民族研究は広西大瑶山の調査から始まり、『中華民族の多元一体構造』(1988)はその民族研究の最高峰である。これは中華民族の起源に関わる「多元論」と「本土説」を論証したものであり、中華民族の多元的かつ一体的な形成歴史を分析した。西洋の民族国家概念とは異なり、費孝通は中国の民族史から出発し、「民族アイデンティティの多層性」、すなわち、異なるレベルの民族アイデンティティは互いに排斥せずに協力できるという観点を提起した。1980年代から90年代にかけて、費孝通の「多元一体論」は多元を重視することから一体を重視することにシフトするが、これは当時の国内外の政治変動と関係する。本稿は、西洋の民族理論の中国への適用、族群(ethnic group)と民族(nation)概念の解析、分析単位の転換と拡張、漢族中心主義、構造機能から観念意識の分析、中華民族共同体意識などの側面から近年の中国の民族学・人類学における「多元一体構造」をめぐる研究成果に対するレビューである。