- 著者
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市川団十郎一世 作
- 巻号頁・発行日
- 1701
絵入狂言本。1世市川團十郎作。鳥居清信画。刊記が破れているが、同版の東京大学総合図書館霞亭文庫本から、元禄13年(1700)3月江戸堺町かいふやの刊行と知れる。仮名草子や謡曲で知られた梅若伝説にお家騒動を絡めた作品。(第1)吉田少将流罪御赦免の祝いに歌舞伎狂言を行うところ、後室来寿院は実子織姫に家督を継がせようと巧み、劇中で少将と班女の子の梅若を殺そうとするが、山田三郎に諫められ、山岡太夫の取り成しで和解となる。御台園生前は梅若を一子松若同様に育てると約束する。(第2)来寿院は病気と偽って、少将と班女調伏のため不動を勧請するところへ、松井竜存は織姫の間夫となろうと偽不動を送り込む。粟津の六郎は藁人形の不動に扮して来寿院を諫め、来寿院は蛇となって逃げる。蛇は班女に迫るが手飼いの猫が飛びかかり、その猫の首を六郎が斬る。猫の執心が六郎を悩ます。(第3)梅若は人買いに身ぐるみ剥がれたたき殺される。探しに来た六郎は死骸を抱いて橋の上で寝ると、橋の下から班女が現れ、梅若の魂が班女を庵の内に導く。帰宅した山岡太夫が班女を殺そうとするが、居合わせた人々に救われ、人々は梅若の死を嘆く。(第4)竜存一味の悪事が禁中に知れ、一味は東に下る。吉田家を再興した松若が園生の前・班女・梅若を尋ねて東に下り一味に会い戦う。山岡太夫は後悔して、班女に討たれんと思い、熊坂に扮して戦うところ六郎に討たれる。熊坂が山岡と知った六郎は切腹。松若も尋ね来て喜ぶところ、竜存一味に攻め立てられるが、龍神と化した粟津の六郎に平定され、お家繁盛を遂げた。元禄以降の歌舞伎で流行した梅若ものの、狂言本として最も早い作品。趣向もふんだんに取り込まれた作品である。石塚豊芥子(1799-1861)の蔵書印2顆と「細木氏蔵書」の印を捺す。「元禄歌舞伎傑作集」上(高野辰之・黒木勘蔵、大正14、早稲田大学出版部)に翻刻あり。(岡雅彦)(2020.2)