- 著者
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平井 和明
大畑 杏奈
- 出版者
- The Japanese Association of Social Welfare Management
- 雑誌
- 日本社会福祉マネジメント学会誌 (ISSN:24364061)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, no.02, pp.71-76, 2021 (Released:2021-10-12)
- 参考文献数
- 20
国内では高齢者が起こす交通事故が経年的に発生しており,その予防は社会的な問題とされている.対策の1 つとして運転免許証自主返納制度が1998 年に始まった一方で,高齢者の免許返納数は伸びず,返納意向に与える要因の特定が求められている.
本調査では,厚生労働省の介護予防チェックリストを活用し,高齢者の運転免許の返納意向と健康との関連に着目し調査を実施した.運転免許の返納意向の有無を従属変数とした多変量解析の結果,運転免許証の返納の意向には,年齢,性別,運転の衰えの自覚とは関係がなかった.その一方で,「認知機能低下のリスクがある人」がオッズ比で3.94,「閉じこもりのリスクがある人」がオッズ比で4.20,それぞれの項目でリスクがない人に比べると免許返納を望まない傾向にあることがわかった.生活の質(QOL)を保ちたいとする意見が,返納を希望しない理由で一番多く挙がり,高齢者の運転免許返納の意向には健康状態だけでなく,背景に社会的な弱者(交通弱者)となる高齢者にとってのQOL が脅かされていることが示唆された.交通弱者である高齢者にとってより効果的な交通システ
ムの導入と,その構築にあたっての医療保健福祉にかかわる人材が果たす役割について,より検討を進める必要がある.