著者
平出 哲也 片山 淳 正木 信行
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.311-318, 2015-05-15 (Released:2015-05-28)
参考文献数
6

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い環境中に多くの放射性物質が放出された。食品中におけるこれら放射性物質の基準値は放射性セシウムの量で評価が行われており,この基準値は他の放射性物質の影響も評価して決められている。実際に,環境中に存在する放射性セシウムの量は半導体検出器を用いて得られるエネルギースペクトル上の全吸収ピークを評価することで行われている。しかし,この方法も含め従来の測定方法は放射性物質と検出器の距離に対して2乗に反比例する検出効率を有しており,周囲に汚染があれば,正しい評価が難しくなるため,試料と検出器は重たい鉛などでできた遮蔽容器に入れる必要がある。また,NaI(Tl)シンチレーション検出器の場合は,各ピークの分離などが容易でなく,より安全な評価ということで,全カウントで評価が行われたりしている。今回,著者らは放射性セシウムの中で,複数のγ線を放出する134Csに着目した簡便な計測法を提案する。現在,環境中に存在している人工放射性核種のうち,複数のγ線を放出するもので比較的多く存在しているものは134Csのみである。134Csに関しては,605keVと796keVのγ線の放出比が高く,これらを同時計測することで,距離の4乗に反比例する検出効率を実現できる。その結果、この手法は、周囲の汚染などに影響を受けにくくなる。また、同時計測によって発生するカウントのみで評価を行うため,スペクトル上のピーク解析など必要なく,NaI(Tl)シンチレーション検出器を用いてもピーク分離などを行う必要がない。この手法は鉛などの遮蔽体を必要としないため,環境中において非破壊でその場測定によって,放射能の評価を行うことが可能になる。