- 著者
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張 愚
- 出版者
- 日本語学会
- 雑誌
- 日本語の研究 (ISSN:13495119)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.1, pp.32-47, 2014-01
本稿では,漢語「むざん(無慙)」という一語を取り上げ,その語義変化と文中での統語的機能の変化との関わり合いに注目し,日本語史におけるその受容と変容の過程について考察した。初期の文献に見られる「むざん」は,形容(動)詞の連体修飾用法として多用されており,「心に恥じない」の意で用いられていたが,平安後期以降になると,述語文の位置に現れることによって,本来含まれている感情的意味がより強調されるようになり,「ひどい」という新しい意味を派生し,その後「ひどい」の意を表す用法との意味上の隣接性を元にして,「いたわしい・かわいそう」といった意味をも獲得した。さらに,近代に入ると,「むざん」は連用修飾用法で用いられることによって,程度性を表す特殊な用法も派生したことが見受けられる。考察を通して明らかになったのは,「むざん」の語義変化がその文中での統語的機能の変化に深く関わっているということである。