著者
肖 穎麗 宮崎 清 植田 憲 張 福昌
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.57-66, 2008
参考文献数
22

中国における意匠権に関する認識の実態を明らかにする一環として、伝統工芸「惠山泥人」の特質と発展史を概観したうえで、江蘇省無錫市泥人研究所、無錫惠山泥人工場においてその制作に従事している職人へのアンケートならびに聴き取り調査を実施した。その結果は、次の3点に要約される。(1)職人たちは、知的財産権としての意匠権という概念を特段に意識化したかたちとして持ち合わせていない。(2)他の親方職人が行った仕事を盗んで真似ることは、職人の世界では禁忌とされていた。すなわち、意匠の盗用などは、元来、職人たちの世界ではありえなかった。それが、職人文化である。(3)個々の職人たちの意匠権に関する認識は必ずしも高くないものの、真摯にものづくりに取り組む気質のなかで、社会的規範として、意匠権保護が自ずとなされていた。しかし、伝統的な工芸文化のなかに経済的利益を目的とした意匠の模倣・盗用が生起しつつあることを考えると、「惠山泥人」を自らの風土に対応して展開される生活文化の造形表現として位置づけ、その文化的価値の再認識が求められる。