- 著者
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張能 美希子
チョウノウ ミキコ
Mikiko CHONO
- 雑誌
- 千葉商大紀要
- 巻号頁・発行日
- vol.45, no.4, pp.47-63, 2008-03
本稿では動態的差別の定義を用いてタスマニア先住民抹消について説明した。動態的差別の定義は差別の2つの特徴,時間による差別の変化と差別の多面的な社会的機能に注目して提唱されている。従来の差別研究で,差別は画一的にネガティブな現象として提えられ,十分な検証を終えずに差別の撤廃という目的に向けて議論は進められがちであった。しかし,動態的差別の定義においては,差別が比較的無害な状態から,有害な状態へと変化するとしており,さらにそれらの変化が差別要素のスパイラルによって行われる,と説明されている。タスマニアの先住民は多くの書物で「絶滅した」とされている。しかし2001年現在,タスマニアのアボリジニの人口は15,733人居り,彼らは純血ではないものの確かにタスマニア先住民の子孫である。本稿ではタスマニア先住民のケースは,存在自体を抹消されてしまう,という差別の最悪のレベルにまで達しているとした。その上でなぜ,タスマニア先住民の存在が無視され,抹消されてしまうのか,という疑問について動態的差別の定義を用いて論じた。