著者
愛知 諒 高村 優作 彦坂 幹斗 河島 則天
出版者
一般社団法人 日本神経理学療法学会
雑誌
神経理学療法学 (ISSN:27580458)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.12-23, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
31

脊髄損傷者の麻痺下肢にステッピング運動を与えると、歩行周期に同調した筋活動(歩行様筋活動)が生じる。この活動は歩行運動の発現に関わる脊髄神経回路網を介した出力であることが明らかにされている。本研究では、脊髄損傷者44名から得た歩行様筋活動を集約解析し、歩行機能の評価手法としての有効性を検証した。ロボット型歩行装置を用いて全ての対象者に統一の受動ステッピング運動を実施し、左右下肢各7筋群から記録した筋活動とその支配髄節の関係性から時空間パターン(髄節×活動位相)を得た。支配髄節を腰髄上位、腰髄下位、仙髄、歩行運動の位相を立脚期前半、立脚期後半、遊脚期に区分し、各髄節と歩行位相における活動レベルを定量化した。分析の結果、①荷重の有無は脊髄完全損傷、不全損傷のいずれにおいても立脚期の仙髄レベルの筋活動を増加させること、②脊髄不全損傷者では随意指令を与えることで歩行様筋活動が増加すること、加えて、③健常者の歩行中には観察されない脊髄損傷の病態に由来する特異的な活動が定量可能であることが明らかとなった。本手法は、麻痺の程度や範囲によらず同一の下肢歩行動作を行わせることで、健常者における歩行中の下肢筋群の活動位相と類似した機能的な活動と健常者では想定されない伸張反射などの脊髄反射に由来すると考えられる脊髄損傷固有の活動を評価できる可能性があり、評価時点では歩行が困難な症例の潜在的歩行能力の把握や再生医療リハビリテーションの効果検証を行う上での有効な評価手法となる可能性が示唆された。