著者
影山 惇彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.165-174, 1966-03-01

水は生体の主要構成成分の一つであり, 全ての生体反応の普遍的媒体として極めて重要な存在である. 特に新生児期においては, その動きが哺育面に及ぼす影響は極めて大きい. 吾が教室では, つとにこの点に注目し水出納の面から研究をすすめている. さてその内で重要な比率を占める不感蒸泄量を測定するため, 恒温恒湿室をつくり, その中に精密な直視式自動人体天秤を設置した. この装置によつて, 新生児の水出納が各種ホルモンによつて如何に影響されるかを検討した. 使用薬剤は4-Chlorotestosterone acetate (Macrobin), 17 β-Valerylonyandrostane 3〜one (Apeton Depo), 1-Methyl'Δ Androstenolone acetate (Primobalan), Norandrostenolone phenylpropionate (Durabolin), 17 α-ethyl-19-nortestosterone (nilevar)なる5種の蛋白同化ホルモンである. 投与法は1回限りの筋肉内注射とし, 使用量は前3者は10mg/kg, 他はそれぞれ5mg/kg, 1.5mg/kgとした. 尚測定条件は上記の恒温恒湿装置により25℃, 湿度70%の環境をつくり, 児を安静に保つため, 毎時10gr哺乳をしながら, 直視式自動人体天秤(秤量100kg, 感量500mg)により逐時的に体重測定を行い, 同時に毎時の尿量をも測定した. 実験の結果は次の通りである. (1)生後48〜60時間の成熟女児の安静時における不感蒸泄量は毎時約0.73±0.12gr/kgであり, 尿量は毎時1.44±0.46gr/kgである. (2)蛋白同化ホルモン投与後の不感蒸泄量の推移には2型がある. 第1型は投与直後より減少しはじめ, 4〜8時間で元の値に復元する. 第2型では概括的にみて直後一過性に稍々増加するが, その後次第に減少傾向を辿り, 12〜20時間で元の値にもどる. 尿量はいづれも投与後次第に減少するが一定時より復元傾向を示す. (3), (2)に於ける水排出量と, その間の哺乳量とを比較すると, 新生児の水出納は蛋白同化ホルモン投与により一過性ではあるが陽性平衡を示している. (4) 血清蛋白量, ヘモグロビン値はこの実験時間内では, 著しい変化をみとめられない. かくて, 新生児に対する, ホルモン哺育の意義に関しては, その蛋白同化面を全く否定するわけではないがそれによる体重増加が主として, 水貯溜に基くものであることが, 我教室の菊池等の実験と相俟つて確認された. (5)しかもこの際の水貯溜機序に於て, 不感蒸泄量と利尿量との間に対蹠共軛的な動きがみとめられ, 生体全体としてHomeostaticに水分量を一定量に保たんとしながら, 増減することが認められた.