著者
振角 圭一
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.54-57, 2014

春日井工場のT―4マシンは1993年の設置以来,約20年に亘ってティシュペーパー用の原紙を生産して来たが,ヤンキードライヤー(以下YD)胴面の減肉が進み,蒸気内圧に対する強度的な限界が近づいていた。そこで,YDの延命対策として耐摩耗性に優れる溶射被膜をコーティングする工事を実施した。<BR>YDは直径4.2m,幅5.8mの巨大なドラムで,内部に蒸気を充満させて,胴面に巻き付けた湿紙を乾燥させ,乾いた紙をドクターで剥がす際にクレープ(縮みじわ)を付ける機能を持つが,材質が鋳物の為,ドクターとの摩擦により荒れた面を定期的に研磨する必要があった。<BR>そこで,YD表面に硬度が高く耐摩耗性に優れる溶射皮膜をコーティングしたところ,ドクターとの摩擦による摩耗が非常に少なくなり,YD表面が荒れないようになった。これにより,定期研磨が不要となったため,YDの減肉が止まり延命に繋がった。<BR>また,T―4マシンではYD表面の摩耗の進行に伴って表面に露出した鋳造欠陥(鋳巣)がスクラッチ状に成長し,これが原因で紙面に穴が発生する問題があり,定期研磨前には抄速を落として対応していたが,工事後にはYD表面が荒れなくなったので,この問題を解消する事ができた。YD溶射後は,エネルギーコストの増加はあるものの,メンテナンスコスト削減と生産性向上により,全体としてコストダウンとなっている。<BR>近年はメーカー各社の溶射技術の向上により,鋳物YDの現地溶射は安価で高品質な施工が可能となっており,今回の工事の結果からも,減肉した鋳物YDの延命化策として全面溶射が有効な対応策となる事が確認出来た。