著者
斉藤 千佳
巻号頁・発行日
2010-03-25

本稿の目的は、一般に「会話形式」と呼ばれる形式で書かれた文章を質的に分析し、それが書き手と読み手の間にどのようなコミュニケーションを成立させているのかを考察することにある。会話形式の文章は、新聞・雑誌等で日常的に見られるものであるにも関わらず、これまで体系的な研究は行われてこなかった。そこで第1章ではまず、本稿で扱う会話形式の文章とはどのようなテクストを指すかという点を明確にする。その上で、第2章では、文章形式全般についての研究や、会話形式で書かれたテクストを対象とする研究、フィクションの会話に関する研究を概観することを通して、本稿における研究方針を提起する。第3章ではこの方針に沿い、実際にメディアで公開された会話形式の読み物を対象として、架空の人物たちによるセリフのやりとりを分析する。データは、登場人物の役割関係を基に、予め次の三群に分類している。すなわち、Ⅰ群:質問者(Q)と回答者(A)による会話から成るテクスト、Ⅱ群:教える人(T)と教わる人(S)の会話から成るテクスト、Ⅲ群:より複雑な対立関係を持つ人々(P1,P2,…)の会話から成るテクスト、である。この三つの群それぞれについて、セリフのやりとりの展開や、登場人物へのキャラクタの配分に見られる傾向を、例を挙げながら考察していく。そこでは、作者の内なる対話における視点の対立が複数の語り手に投影され、キャラクタの適用により可視化されていると考えられること、また作者と読者が登場人物同士による会話の「場」を共有することで、テクストを媒介とする仮想的な交話的コミュニケーションを行っている可能性があることを指摘する。第4章では以上の分析結果をまとめ、さらに会話形式の文章の研究が現代において持つ意義と今後の課題について触れる。