著者
斉藤 正武
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1015-1021, 1988-09-15

抄録 盲目の妻に発生した皮膚寄生虫妄想が夫にも感応した症例について,夫婦共に入院治療を行い,経過を観察した。夫婦は発症まで比較的孤立した生活を送っており,また発端者の妻が夫に比べ知的にも性格的にも優勢であるなど,folie à deux例で一般にみられる傾向を示していた。しかし,被感応者で視力健常な夫に"虫を見る"症状が現れるなど,夫婦には互いに協力して妄想を守り発展させる面がみられた。また,夫は入院後間もなく他者に対し心を開き症状も改善したが,そのような夫に対し妻は"2人だけの共同体"を守るため様々な試みを行った。しかしやがて,妻は夫を媒介とすることで現実的共同社会へと開かれ,それに従い妄想も消失した。以上の経過をもとに,folie a deuxでの両者の関係や被感応者の役割を考察し,またfolie a deux例の観察が,妄想という現象に対して何らかの示唆を与える可能性を述べた。なお併せて,皮膚寄生虫妄想の感応例を文献的に概観した。