著者
斉藤 静雄
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.358-364, 1968-04-01

妊娠時におけるestrogens (ES) 代謝は胎児・胎盤を1つの単位として複雑な過程で行なわれていると考えられている. 私は胎盤に含まれているESがどの様な割合で胎児または母体側へ移行し, それがどの様なES代謝上の意義を持つか, 特に estrone (EO), estradiol (ED) が estriol (ET) 合成に対して, どの程度の役割を演じているかを知る目的で, 臍帯動・静脈血液, 胎盤後血腫および母体末梢静脈血液中の遊離型および結合型ESの3分画を測定し検討を試みた. (1) 臍帯動・静脈血中ESの大部分は結合型ETで血清50ml当り動脈側67.0μg, 静脈側52.0μgと動脈側の方が高値を示した. このことは同一新生児について比較した値でも同様であった. 結合型EO, EDは動脈側0.7μg, 0.4μg,静脈側 0.5μg, 0.3μgと共に微量であった. 遊離型ESは動脈側はEO O.2μg, ED 0.2μg, ET 0.7μgと極めて微量であったが, 静脈側ではEO 0.9μg, ET 3.9μgが認められた. しかしEDは0.4μgと微量であった. これら遊離型ESは胎盤内のESが移行したものと思われる. (2) 胎盤後血腫および母体末梢血中ES量を比較すると, 末梢血中では遊離型ESは血清50ml当りEDが1.2μg認められたのみで, EO, ETは0.3μg, 0.4μgと微量であった. しかし胎盤後血腫中では遊離型のEO 0.9μg, ED 3.6μg, ET 3.7μg が認められた. 結合型ESはEO, EDは胎盤後血腫中では2.1μg, 0.6μg, 末梢血中では3.4μg, 0.8μgとほぼ同値を示したが, ETは胎盤後血腫中の方が8.2μgと末梢血中の4.6μgより高値を示した. 以上の結果より考えると, 胎盤内のEO, EDが胎児側へ移行する割合は極めて少ない事から, これらがETの主な前駆物質であるとは考えられない. また臍帯動脈側のETが静脈側より高値を示すことから胎児側でもETの産生が行なわれているものと考えられる.