著者
斎藤,常正
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集
巻号頁・発行日
no.49, 1998-03-27

1960年代後半, 地球科学の新しいパラダイムとして誕生したプレート・テクトニクス説は, 海洋底は中央海嶺で生産され, 海溝で沈み込むと説明する。この説が正しければ, 大西洋の海底地殻は海嶺の中軸でもっとも若く, 中央海嶺から離れるにしたがって古くなるはずである。1968年アフリカのセネガールを出港し, ブラジルのリオディジャネイロに向かったグローマー・チャレンジャー号の第3次航海は, 南緯30°線にそって大西洋中央海嶺の東西斜面の掘削を行い, いかなる論理的な疑問をはさむ余地が無いほどに大西洋は海洋底拡大の結果生まれたことを証明した。海嶺中軸をはさんで, 東斜面の2地点, 西斜面の7地点で掘削された堆積物中の石灰質浮遊性微化石による年代決定は, 大西洋の海嶺が, それぞれの方向に年に2cmの速度で拡大していることを示した。筆者は, この歴史的な航海に参加して浮遊性微化石の年代決定にあたったが, 微化石年代法の成立までの筆者の体験を回顧しながら, さまざまな研究が一つの仮説を理論へと高めて行った過程を論じている。