著者
早川 浩司
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.85-88, 2003
参考文献数
13

アンモナイトや三葉虫は子供から大人まで最も良く知られた化石である.アンモナイトは古生代シルル紀末に出現して, 中生代白亜紀末に絶滅するまでに, 約3億5千万年あまりの間, それは地球の歴史45億年のうちの約7.8%もの長い期間を生き抜いた古生物の化石である.アンモナイトが頭足類であることは多くの化石記録からほぼ間違いないが, どのような生き物が作った殻なのかはよく分かっていない.アンモナイト研究そのものは約200年ちかい歴史があり, 殻構造や進化についてはもっともよく分かっている化石生物の一つのグループでもあるが, 肝心のその殻を形成した生き物についてはほとんど分かっていないと言っても良い.アンモナイトは非常に多様な殻形態を持つこと, 美しい縫合線を持つことで, 研究者を魅了し, 彼等をその解明に掻き立てた.一方で, 世界中の中生代の地層から豊富に産出し, 形の多様性だけではなく, 様々な色を呈することから, 化石愛好家をも夢中にさせている.いわゆるアンモナイトはかつて, ゴニアタイト, セラタイト, アンモナイトという3つのグループに分けられていた.最近では個体発生における縫合線の変化に基づき, バクトリテス, アナルセステス, ゴニアタイト, クリメニア, プロレカニテス, セラタイト, アンモノイドの7目に分けられている.それぞれのグループが絶滅を迎えた時に生き残ったひとにぎりの集団から次のグループが派生したと考えられている.その一連の進化は殻構造の複雑化として理解されるが, 必ずしもすべてが同じ傾向にあるわけではない.特に縫合線はゴニアタイトにも複雑なものが存在し, アンモナイトにも単純なものが存在する.異常巻きアンモナイトはその特異な巻き方から, その名前の通り進化末期の異常形質と考えられていた時期もある.しかし, 英語名のヘテロモロフ(heteromorph)は「異なる形態」という意味であり, いわゆる普通巻きのアンモナイトとは巻き方が異なっていると言う意味である.異常巻きアンモナイトと呼ばれる仲間は, 中生代三畳紀に出現したSpirocerataceae(スピロセラス超科)のグループで, それ以降も細々と続いている系統であるが, 多系統である.北海道の白亜系ではノストセラス科の異常巻きアンモナイトがチューロニアンになって爆発的に増加し, 北大平洋地域のアンモナイト群集を代表するグループとなった.本論では主に北海道のアンモナイトに関する研究を紹介し, 残された問題点について筆者の考えを盛り込みながら, 今後のアンモナイト研究の課題について述べたい.