著者
春帆堂主人//述,皎天斎主人<酢屋国雄>//画
出版者
辻文助 〔ほか〕
巻号頁・発行日
1775

明和年間(1764-71)に白鼠の飼育が上方より流行しはじめ、江戸に及ぶ。本書はそれを受けた出版だが、ほとんど知られていない稀書で、著者も絵師とも実名は不明である。上巻では、鼠に菓子札をくわえさせ、札に記された菓子を子どもに与える大道芸人や、鼠店の店先を描いた絵が面白い。下巻では、熊鼠・豆鼠・鹿子・はちわれ・狐鼠などの変わりものを図示する。これらは鼠店で売っていると、鼠店5軒の名も挙げる。また、樊(とや、飼育篭)の作り方や、鼠の慣らし方にも筆が及ぶ。鼠の飼育書としては、天明7年(1787)刊行の定延子著『珍翫鼠育艸』(ちんがんそだてぐさ、157-85)もある。これには「鼠種(ねずみだね)取様秘伝」という章が設けられ、特定の掛け合せで望みの奇品を得られると、7組の交配について詳細に説明されている。たとえば―「熊ぶち」(黒斑のある品種)どうしの掛け合せで「黒まだら」が生じ、稀には藤色の子が生まれる―などで、7組の交配は現代遺伝学でほぼ説明できるという。この本には15の品種名と6種の図もある。なお、一般に「白鼠」はマウス(ハツカネズミの飼育変種)とされるが、ラット(ドブネズミの飼育変種)という説もある。:『黎明期日本の生物史』参照(磯野直秀)