著者
曽我部 正弘
出版者
徳島医学会
雑誌
四国医学雑誌 (ISSN:00373699)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1.2, pp.53-66, 2023 (Released:2023-07-03)
参考文献数
34

胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease:以下,GERD と略)は胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜傷害と煩わしい症状のいずれかまたは両者を引き起こす疾患と定義されている1)。GERDは内視鏡的に食道粘膜傷害を認める「びらん性GERD」と内視鏡的に粘膜傷害を認めず症状のみを認める「非びらん性GERD」に分類される。前者は一般的に逆流性食道炎(Reflux Esophagitis)として,後者はNERD(Non-Erosive Reflux Disease)として広く知られている。 逆流性食道炎を含むGERDの罹患者数は日本や欧米などの先進国では1970~1990年代頃にかけて急激に増加し,経済成長の著しい発展途上国においても近年増加傾向にある2-4)。本邦における逆流性食道炎を含むGERD罹患者数は約1,000~1,500万人で,成人の5人に1人がGERD罹患者と考えられている。逆流性食道炎は粘膜傷害の程度によりロサンゼルス分類(以下,LA分類と略)を用いてgrade Aからgrade Dに分類される5)(重症度:D > C > B > A)(図1)。食道粘膜傷害の主な原因は胃酸の胃食道逆流による食道内への過剰な胃酸曝露であり,その要因は食道裂孔ヘルニアの存在や肥満による腹腔内圧の上昇に伴う下部食道括約筋圧の低下や胃内の空気を排出する際の一過性の下部食道括約筋弛緩であり,食事や喫煙などの生活習慣などが,これらの要因に影響を及ぼしていると考えられている6-14)。また最近では,食道腺癌発症機序の一つに,逆流性食道炎→バレット食道→食道腺癌の経路が明らかとなり,欧米では最近30年間においてHelicobacter pylori(以下,H. pyloriと略)感染率の低下とともにバレット食道からの食道腺癌発生率が数倍になっていることが報告されている15)(図2)。本邦においても肥満者の増加に加え,生活習慣の欧米化やH. pylori非感染者の増加に伴い逆流性食道炎罹患者が増えていることから,今後GERD症状に悩まされる罹患者が増えるだけではなく,バレット食道からの食道腺癌患者の増加に繋がる可能性が懸念されており,食道腺癌発症の観点からも逆流性食道炎の予防は極めて重要な課題である。そこで本稿では,著者らがこれまで行ってきた逆流性食道炎に関する幾つかの研究について紹介させていただく。