著者
服部 満江 田中 実男
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿兒島大學農學部學術報告 (ISSN:04530845)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.213-223, 1958-10

本稿は鹿児島の農業の発展促進の順序を解明せんとするものであるが, そのためには, 先ずここの農業の本質を弁えた上で, その順序の判別を行わねばならぬ.鹿児島では農業が最も重要な産業でありながら, それが後進的で生産性も低いが, その主なる原因は, ここの農業が自然条件並びに市場条件に恵まれておらぬことと, 第2次産業未発達の故に農業人口が漸次増大した結果生じた多数の零細農家が農業生産を担当していることにある.そこで鹿児島の農業の発展促進のためには, これらの不良条件に対処するための処置が優先的に考慮され, 以て農業生産の安定を期することが基本的な重要事項となつてくる.その内容について概言すれば, 気象条件上農業生産にとつて最も不利な台風に対処するためには, 水陸稲の早期栽培, 畜産の強化, 果樹園の防風施設の強化が優先さるべく, また, 土壌条件上生産に不利な火山灰土壌に対処するためには, 地力増進方式の設定, ボラ, コラ層の排除, 更には畑地灌漑などが優先さるべきである.水田においても秋落田についての地方増進方式は必要であり, 用排水路の改善などが先ず考慮さるべきである.農産物販売のための市場条件の不利に対処するためには, 共同販売体制の確立は不可欠であり, また市場の動向に適応して計画的な生産を行うべき考慮も重要である.次に, 零細農が農業生産を発展的に担当し得ることを計るためには, 外部より農業資本を導入し, 計画的指導体制を確立し, また, 農家の協力体制を作り上げることが, 至難ではあつても, 優先的に考慮さるべきであり, 更に他方では, 開墾, 工場誘致, 出稼移民の促進を通じて, 零細農の発展的解消への努力もつづけられねばならぬ.これらの考慮に基づいて, 従来の諸種の農業発展促進計画を再検討すれば, 問題のとり上げ方の順序並びに各種問題間における相互関係が充分理解され得る場合が多い.