著者
木村泉
雑誌
情報処理学会研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS)
巻号頁・発行日
vol.1980, no.28, pp.1-6, 1980-10-24

はじめての計算機システムに対面したとき、われわれはとかく欲求不満を味わう。計算機システム一般に関して十分な常識をもっている利用者の場合であってさえ、そのシステム固有の約束ごとを習いおぼえるまでは何となくがたがたする。システムが利用者に一般常識を要求することは理の当然であるが、システム固有のこまかいくせに関する精通を要求することは好ましくない。しかるにそういう不当な負担を利用者に課しているシステムは多い。例をTSSにとろう。どんなTSSにもハッカー(hacker)と呼ばれる人種がまつわりついている。システムのこまかいところをよく知っていて、常人には思いもよらないようなことを小細工(ハッキング?hacking)によってやってのけてしまう。彼らは、その神秘的能力ゆえに端末室などでは至って大きな顔をしている。一般利用者は、何となく釈然としないながら、圧倒的な実力差を認識してだまっている。これは実によく見かける風景であるが、あるべき姿とは思われない。ハッカーの跳りょうを許すシステムは悪いシステムである。理想をいえば、システムは計算機技術に関する一般常識をしっかり身につけた紳士淑女ならばだれでもさっと使える、というものであるべきだ。システム固有の知識がまったくいらないというわけには行かないかも知れないが、必要な知識の量は少なければ少ないほどよく、また適当なマニュアルないしオンラインドキュメンテーションによって容易に入手できるようになっている必要がある。本文では、こういう意味でTSSの「とりつきやすさ」について、二、三のTSSにとりついてみた経験に基づいて論じたい。具体的には筆者(どちらかというと事務計算向きのバッチシステムと、本来制御用として設計されたミニコンピュータに慣れた)が、通算約1年8か月にわたって米国に滞在していた間に、一般利用者として(つまりシステムそのものについて知りたいよりはそれを使って何かほかのことをしたいという動機で)接触した3種の代表的TSSについて、どんな経験をしたかを述べ、それをもととして上の問題を考えてみたい。