著者
木谷 岐子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.122, pp.1-25, 2015-06-29

本研究は,ASD の人がいかなる「自分」を抱えてきたのか,当事者の語りからその様相に迫ることが目的である。成人後にASD と診断された10 名に半構造化インタビューを行い,診断前から現在にかけての「自分」について聞いた。M-GTA を用いて分析した。その結果,ASD の人の「自分」を尋ね出すプロセスは,「おぼろげな自分」を抱えつつなんとか他者と関わって生きようとする中で動き出していた。さらに,「身体の訴えをきき流す」ことで「苦悶のサイクル」を巡り,「身体の訴えをきき入れる」ことで「調整のサイクル」へと転じ,「人の中で生きられる自分の形を探す」試みへと導かれていた。しかし,「人の中で生きよう」とするゆえに,再び「“できなさ”の中に自分を垣間見る」こととなり,「苦悶のサイクル」に戻っていってしまうこともある。こうした行きつ戻りつの巡りの中で,「自分」を尋ね出すプロセスは続いていた。