著者
村瀬 勝樹
出版者
奈良大学大学院
雑誌
奈良大学大学院研究年報 (ISSN:13420453)
巻号頁・発行日
no.3, pp.155-161, 1998-03

人は、土地を利用する際に建築や土木工事などを行う。そして、敷地や建物の安寧を土地の神に祈願する儀礼を行うことで、その土地を鎮め、清浄ならしめようとする。発掘調査においては、建物の基壇や敷地・建物に関連する土坑より土地神を供養する品々を納めた容器や鎮物が発見されることがある。現在でも神道では地鎮祭として行われており、見かけることも多い。かつての陰陽道では土公祭と称する土地鎮めの祭儀を行っていた。仏教では、密教において地鎮.鎮壇と呼ばれる修法があり、宗派によっては安鎮、宅鎮や土公供等とも呼ぶ。このように、宗教・宗派によって、その性格は同じであっても名前が異る為、研究上の用語として、土地の神を供養する儀礼を地鎮や地鎮め等と総称することもある。我々は、考古学資料や文献史料などから、神話や教義を伴う多様な儀礼の形態をもった土地神に関する信仰を知ることができる。なかでも、地鎮・鎮壇の考古学的研究においては、水野正好、森郁夫や木下密雲など先学の諸氏によって、その古代から近世にわたる様相とその背景が明らかにされてきた。拙稿は、それらの成果と業績の上に立って、私見を記したものである。