著者
東 泰裕
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.324-329, 2021-12-15

Ⅰ.はじめに 近年,理学療法士(physical therapist:PT)および作業療法士(occupational therapist:OT)分野では臨床実習のあり方について様々な議論がなされており,言語聴覚士(speech therapist:ST)にとっても関心の高い内容であると考えられる.2018年10月には,理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則が改正され,新たに示された養成施設指導ガイドラインにおいて「評価実習と総合臨床実習については,実習生が診療チームの一員として加わり,臨床実習指導者の指導・監督の下で行う診療参加型臨床実習が望ましい」とされた1). 診療参加型臨床実習(clinical clerkship:CCS)とは,「学生が診療チームの一員として診療業務を分担しながら,職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な内容を学習し,実際の診療業務に必要とされる思考力(臨床推論)・対応力などを養うことを目的とした実習形態」2)のことであり,「教育者や実習施設を保護しながらも,臨床実習を可能にするコンプライアンス遵守のためのシステム」3)でもある.一方で,従来型の臨床実習とは,明確な定義はないが「実習施設にて学生自身が患者を担当し評価から治療までの過程を経験する」という“患者担当型”の指導形態が代表的な例3)であり,CCSのような学習理論4)に基づく明確な指導方法やコンプライアンス遵守のためのシステムは存在しない.また,その実施方法は学校養成施設や臨床実習施設によって様々であるとされる5).2017年のPT,OTの学生・卒業生を対象としたアンケート調査6)では,約8割が患者担当型実習を経験したと回答している.この従来の患者担当型実習の問題点として,臨床実習で学生が行う行為の違法性阻却のための条件7)が整備されていないという課題3)や,対象者に触れない見学中心の臨床実習であることなどにより療法士の臨床能力の低下につながっている課題8)が示されている.また,レポート中心の指導となっている実態やその弊害も報告されており9-11),これらの問題を解決するための新たな臨床実習のあり方としてCCSが求められている. 上記の背景から,当院リハビリテーション部では臨床実習のあり方に関する議論を重ねてきた.2018年度にはPT,OTは臨床実習を全面的にCCSへと移行し,STでは移行期間を定め,複数の養成校の協力を得ながらCCSによる臨床実習指導体制の整備を図ってきた.今回は,そのうちの学生1名の実践を報告する. なお,本報告に関して,当院臨床研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号433).その後,学生と養成校の担当教員に口頭および書面にて説明し同意を得た.