著者
東村 輝彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.787-790, 1998-07-15

■はじめに 猫は犬とともに最も身近な愛玩動物である。猫に関する俗信は多く,猫は化ける,崇る,憑きやすいと言われてきた。しかしながら,猫憑きに関する精神医学の領域からの報告は少なく,「猫男」になったという例も含めてわずか5例にしかすぎない1,3,4,14,16)。したがって猫憑きに関してその地域特異性などを検討することは困難である。 我々4)は,かつて猫憑きの1例を民俗精神医学的立場から検討し本誌に報告したが,本シリーズでもその症例をもとに,改めて,動物と人間霊が継時的に憑依した点と祖霊信仰と憑依とのかかわりに注目し報告したいと思う。 宮本10)は,「動物憑依と神仏・人間霊による憑依はふつう同一人物で混じり合うことがない。憑きものの俗信がなお残る山陰や四国でも,動物霊と人間霊の両方に—同時的または継時的に—憑依された症例はおそらくまだ観察されていないだろう」と述べている。 我々の症例は,猫に続いて祖母の霊が憑依しており,これまで観察されたことのなかった貴重な憑依現象ではないかと考えている。