著者
辻田 麻紀 松下 佐知 高瀬 弘嗣
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.69-76, 2021-06-16 (Released:2021-06-16)
参考文献数
29

背景・目的 本課題は慢性心不全の治療に用いられる和温療法について実験動物を用いそのリポタンパク質代謝への影響について検討するものである。方法 野生型マウスを2群に分け各々をポリプロピレン製管中に保持する。WAON群は使い捨てカイロの熱赤外線下に15分間保温した後キムタオルで覆い30分間保温を続け、対照群ではキムタオルでのみ45分間保温した。以上の操作を5日間連続で行い、血清・脳脊髄液並びに肝臓を摘出し両群におけるリポタンパク質代謝に関わる因子について評価した。結果 マウスpool血清HDL-C、LDL-CはWAON群において対照群よりそれぞれ4.34、2.15mg/dL上昇し、中でもHDL-C中型粒子 (φ10.7nm) が最も増加していた。肝臓での遺伝子発現はAbca1が上昇(P=5.3E-07) しPcsk9とScarb1は低下 (P=0.001, P=0.0006)したがApoa1並びにHmgcrは差がなかった。血清並びに脳脊髄液のAβ40、Aβ42はWAON処置により増加傾向が見られたが有意差には至らなかった。考察 野生型マウスを用いた熱赤外線WAON処置により血中HDLが上昇した。肝臓ABCA1の発現上昇とSR-BIの発現低下から血中HDL新生の増加と代謝の遅延がその機序として推察され、血中HDL増加により和温療法で観察されてきた血管内皮機能の改善につながる可能性が考察される。