著者
松井 武彦
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.17, no.9, pp.947-956, 1965-09-01

近年, 妊娠貧血に関する研究は多方面に亘り, その進歩には目覚しいものがある. 古くは末梢血の検索が主たる研究課題であったが, 最近は優秀な理化学器械の出現と放射性同位元素の応用などにより研究方法が一新したかの感がある. 末梢血の検索が貧血の診断に重要であることは今更申すまでもないが, 更に一歩前進して血液中の造血資材の検索はそれ以上に診断的価値があるものと信ずる. 妊娠貧血の原因については未だ氷解しない面が多いようであるが, その大部分は鉄欠乏性のものであるとの意見が強い. 私は健常妊婦の末梢血の検索の結果, 低色素性のもの以外に高色素性の貧血をかなりの頻度に認めた^&lr;22)>. このことが動機となり健常妊婦の血清鉄および血清ビタミンB_<12>量の変動を追求した. 1) 昭和37年1月から昭和39年1月まで約2年間に亘り, 長崎大学産婦人科外来健常妊婦330例について検索を試みた. 2) 末梢血の検索は一般に行われている方法で行った. 3) 血清鉄および不飽和鉄結合能の測定はSchade et al ^<37)>の原法に従って行った. 発色剤は2, 2', 2"-terpyridine, 試薬はすべて特級を使用した. ガラス器具は硝酸:水=1:1に一昼夜以上浸し鉄イオンの排除につとめ, 洗滌は再溜水で何回も行った. 4) 血清ビタミンB_<12>量の測定はMeynell et al^<26)>の原法に従って行った. 定量用菌株は, Lactobacillus leichmannii, 保存, 前培養および定量用培地はDifco社製市販既成培地, ビタミンB_<12>標準原液はRubramin(Squibb社製)を用いた. 試料中の菌の増殖度は試料のpHの変化から求めた. 研究成績 : 赤血球数, ヘモグロビンおよびヘマトクリット(以下それぞれをRBC, Hgb, およびHct. と略記する)は妊娠初期にすでに健常非妊婦に比し推計学的に有意の減少(P<0.05)を示した. 妊娠月数の進行につれてその減少は著明となり, 妊娠中期に最大の減少が認められ, 以後やゝ恢復傾向が認められたが, 妊娠初期の値にまでは達しなかった. 初経産別では経産群に有意の減少(P<0.05)を示した. 大部分のものは正球性正色素性を示したが, この外, 小球性低色素性および大球性高色素性のものがかなりの頻度に認められた. 血清鉄は健常非妊婦に比し有意の減少(P<0.05)を認め, 不飽和鉄結合能は有意の増加(P<0.05)を認め鉄欠乏の存在を確認した. 血清ビタミンB_<12>量は健常非妊婦に比し有意の減少(P<0.05)を認めなかった. 妊娠月数の累加にともない減少傾向にあり, 妊娠中期に有意の減少(P<0.05)が認められた. 妊娠後期ではやゝ恢復の傾向を認めた. 小球性低色素性群にも血清ビタミンB_<12>量の欠乏を認め, 又大球性高色素性群にも血清鉄の減少を認め妊娠中は鉄欠乏とビタミンB_<12>の欠乏の両者が合併しているために複雑な病相な呈するのではないかという結論に達した.