著者
松原 光代
巻号頁・発行日
2014-04-24 (Released:2014-04-17)

本稿における「短時間正社員」とは、「フルタイム正社員と比較して、その所定労働時間が短い正社員であり、期間の定めのない雇用契約が締結された者」である。 「短時間正社員」は、これまで育児や介護が必要な正社員のための多様は働き方の一つとして企業に取り入れられてきた。しかし、従業員の価値観やライフスタイルの変化に伴い、企業は正社員だけでなく、正社員以外の従業員を含め「職業生活」、「家庭生活」だけでなく 「社会生活」や「自分生活」まで視野に入れながら組織の目標達成とこれらの実現を可能にする雇用管理システムを構築していかなければ有能な人材を有効に活用できない。しかし、従来の研究は正社員の育児・介護のための短時間勤務制度に関するものが主流であるうえ、短時間正社員制度をどのように取り組めば機能するのかについて考察したものは存在しない。そこで本稿は、短時間正社員になる前の雇用区分別(正社員ルートとパートタイマールート)にそれぞれの短時間正社員制度が機能する要因をアンケート調査やヒアリング調査結果に基づき人事管理と職場マネジメントの両面から検討する。 全体の構成は次のとおりである。 まず第1章では、本稿における短時間正社員の定義、短時間正社員のタイプおよび研究課題を提示し、さらに短時間正社員の必要性を労働供給側と労働需要側から明らかにした。 まず、短時間正社員は「短時間正社員になる前の雇用形態」と「短時間正社員身分の継続期間」により「一時的な短時間正社員」、「恒常的な短時間正社員」、「パートタイマー短時間正社員」の3タイプに分けられ、「一時的な短時間正社員」と「恒常的な短時間正社員」が正社員ルート、「パートタイマー短時間正社員」がパートタイマール一トに属する。 これらの短時間正社員制度が定着するためには、短時間正社員制度が機能するための人事管理や職場マネジメント、さらには制度の導入が各組織にもたらすプラスの効果が不可欠である。そこで、本稿では、短時間正社員制度が機能するための要因と経営上の効果を解明するため、以下のような4っの課題とそれに対応する仮説を設定しルート別に検証することとした。課題1 企業が短時間正社員制度を導入する背景は何か課題2 企業が短時間正社員制度を導入する背景は何か短時間正社員制度が機能する職場マネジメントとは何か課題3 短時間正社員制度が機能するには、どのような人事管理が必要か課題4 短時間正社員制度は、人材の定着など経営パフォーマンスに効果をもたらしているのか 課題1については、企業が正社員ルートの短時間正社員制度を導入する背景に関連して「女性活用仮説」、「壮年期従業員離職防止仮説」、「多様なキャリア支援仮説」、「技術継承仮説」の4つの仮説を設定した。また、パートタイマールートについては、「正社員以外の従業員積極活用仮説」を設定した。課題2については、企業が「正社員」に求めることを短時間勤務で達成できるかが鍵であり、そのための職場マネジメントの「仕組み」を持つ企業(職場)で短時間正社員制度が機能すると考え、ルート別に仮説を設定した。正社員ルートに対しては、(1)職場の生産性(職場要員のモチベーション、業務効率性)の維持と(2)短時間正社員本人のキャリアロスと企業全体の人材育成ロスへの対応がポイントになる。一方、パートタイマールートに関しては、フルタイム正社員への円滑なキャリアアップが可能なように、(1)短時間正社員の担当業務の多様化(難易度の設定)と、(2)短時間正社員のキャリア志向や能力に応じた業務配分がポイントになるとした。 課題3については、制度利用者のモチベーションや組織コミットメントを高く維持できる人事管理が整備されている企業では短時間正社員制度が機能すると考えた。具体的には、正社員ルートはフルタイム正社員と大きく変わらないことがポイントになり、パートタイマールートは、パートタイマーをフルタイム正社員に登用するための一段階として導入されるので、短時間正社員の人事管理はフルタイム正社員への移行を円滑にさせるための、正社員と正社員以外の従業員の中間形として形成されるとした。 課題4については、短時間正社員制度の導入は、適切な職場マネジメントと人事管理が組み合わされることによって、制度利用者のみならず、社員全体の継続就労意欲、労働意欲および組織コミットメントなどの労務管理上のパフォーマンスを高め、それらを通じて財務パフォ一マンスを高めると考えた。 さらに、「短時間正社員の必要性」については、労働供給側からの理由として以下の3点をあげた。 第一に、女性が継続就労することに対する意識や理解が男女ともに高まりつつある一方で、子どもを持つ女性の有業率は20年前より低下し、女性の継続就労が困難である状況は改善されていないこと、一度労働市場から退出すると労働市場への再参入が難しいうえ、再参入しても働き方がパートタイマーやアルバイトに制限され、労働意欲の高い人材が能力を発揮できる機会が少ない点である。 第二に、男性の就労に対する価値観やライフスタイルへの考え方が変化した点である。 第三に、パートタイマーの質的基幹化が進んでいるにもかかわらず、正社員を希望するパートタイマーが増えない背景にはフルタイム正社員の拘束的な働き方がある点である。 一方、労働需要側からの必要性にっいては、経済のグロ一バル化に伴って企業は付加価値の高い財・サービスを短期間で提供する必要性から「知的熟練」度の高い「コア人材」を確保し活用していくことが重要になっていることから、企業は組織の「コア人材」の対象をフルタイム正社員に限定せず広く人材を活用し求めていく必要があるとした。 第2章では、わが国における短時間正社員に関連する先行研究の成果について整理した。ただし、そのほとんどが正社員が育児・介護のために短時間勤務するための制度に関するものである。先行研究の結果からは以下の5点が明らかになった。 第一に、短時間正社員に対するニーズは、労働者が正社員の場合、全般的に男性よりも女性に多く、特に子どもが未就学の時期に顕著である。男性でも正社員同士のカップルの場合にニーズが高く、家族の介護期のライフステージに当たる管理職で潜在的ニーズがある。一方、パートタイマー等の正社員以外の従業員の場合は、フルタイム勤務の正社員への登用を希望する者は少ないが、残業や転勤などがない短時間正社員であれば、リーダー的役割にあるパートタイマーを中心にニーズは高まる。 第二に、短時間正社員の仕事は、フルタイム勤務時の仕事内容を継続し勤務時間に応じて仕事量を調整する企業が多かった。なお、一部の会社では短時間勤務にあう職場や仕事内容に変更するケースがみられるが、制度利用者のモチベーションや組織に対するコミットメントは大きく低下する。 第三に、企業は、短時間正社員が可能な職種と難しい職種があると考え、専門性の高い業務やマネジメント業務では短時間正社員の適用が難しいと考える傾向が強い。 第四に、短時間正社員の人事管理にっいては、短時間正社員の賃金決定方法、目標設定、評価基準、賞与の決定方法はフルタイム勤務時と同じルールを適用するケースが主流である。しかし、昇進や昇格にっいては、フルタイム勤務者と同等に扱うことへの社内抵抗が大きく、それとフルタイム勤務者と変わらずに成果をあげているとする制度利用者の間には温度差があることから、社員や管理職が明確な基準や考え方を共通認識として持つことが制度の円滑な運営において重要である。 第五に、制度導入の効果については、人材の確保と有効活用を通して人件費を抑制する効果がある一方、職場における仕事管理の複雑化、制度利用者の人事処遇のあり方の検討、および制度利用に対する管理職や職場同僚の理解不足が課題であることが明らかにされている。 第3章では、わが国の短時間正社員制度の現状を、導入企業の特徴、制度の適用事由、短時間正社員に対する人事管理の実態、制度導入のメリット、デメリットの観点から明らかにした。そこで明らかにされた内容は次のようになる。 第一に、わが国の短時間正社員制度は一時的な短時間正社員制度が主流であり、その導入率(運用している企業も含む)は2割強で大規模企業を中心に整備されている。恒常的な短時間正社員制度は中小企業を中心に7%程度の企業で導入されている。このうち、一時的な短時間正社員制度と恒常的な短時間正社員制度の両者を持っ企業が3.2%あるため、正社員ルート型の短時間正社員制度を導入する企業は23.9%で全体の1/4の企業が導入しているといえる。これらの制度の過去3年間の利用者数(のべ数)は、一時的な短時間正社員制度は9.8人、恒常的な短時間正社員制度は31.3人と両者の間に大きな違いがある。これは、制度の適用事由の影響を受けており、恒常的な短時間正社員制度には定年退職者の継続雇用策としても活用されていることが考えられる。一方、パートタイマーから短時間正社員になる制度の導入率は2%と低く、中小企業での導入が多い。また過去3年間の利用者数は8.8人となっている。 第二に、一時的な短時間正社員制度は、育児・介護事由や健康障害事由が主流であるが、恒常的な短時間正社員制度およびパートタイマー短時間正社員制度では、育児・介護、健康障害にとどまらず、高年齢者の継続雇用事由、短時間正社員としての新規採用事由、高能力・高意欲者の確保事由、優秀人材の確保・定着事由といった多様な事由を対象としており、労働者の諸事情を踏まえて働き方の柔軟化をはかる手段として活用されているといえる。 第三に、短時間正社員に対する人事管理については、一時的な短時間正社員は、賃金、目標管理、昇進、異動、教育訓練などフルタイム正社員と同等に扱われるケースが多いが、恒常的な短時間正社員とパ一トタイマー短時間正社員は、フルタイム正社員とは異なる人事管理が行われる傾向が強い。 第四に、制度導入のメリットにっいては、一時的な短時間正社員導入企業では女性の継続就労や対外的なイメージ向上に対する効果を、恒常的な短時間正社員導入企業では人材の有効活用に対する効果を、パートタイマー短時間正社員導入企業では人材の有効活用に加えて業務の効率化や労働生産性の向上、長時間労働の是正の効果を評価する傾向がある。一方、仕事の進め方に関するデメリットにっいては、一時的な短時間正社員導入企業では職場内での業務対応の柔軟性の低下を、恒常的な短時間正社員導入企業とパートタイマー短時間正社員導入企業では職場内連携の低下を指摘する傾向が強い。さらに、パートタイマー短時間正社員導入企業では対外的な対応にも支障がでるという点が指摘されている。また、人事管理面のデメリットについては、一時的な短時間正社員導入企業と恒常的な短時間正社員導入企業では賃金や評価制度の煩雑性が大きいことを、パートタイマー短時間正社員導入企業は、人材育成やキャリア管理が複雑になることを指摘する傾向がみられた。 第4章では、短時間正社員制度導入企業に整合的な人事戦略を正社員ルート型については計量分析を、パートタイマールート型についてはクロス集計分析を用いて考察した。その結果、第一に、一時的な短時間正社員制度では、人事戦略因子「女性社員の能力発揮を中心とする社員の仕事と生活の両立のための多様な働き方支援」と人事戦略因子2「社員の能力開発支援による生産性向上」が正に有意となり、本稿の研究課題1の仮説のうちの「女性活用仮説」が支持された。人事戦略因子2は、本論の研究課題の中では指摘していなかったが、先行研究における結果に基づき第4章で設定した仮説2「社員の能力開発支援を重視する企業で短時間正社員制度を導入する」が支持される結果となった。一方、人事戦略因子「正社員以外の従業員の活用と人事管理の見直し」は負に有意となり、本論の研究課題1の「正社員以外の従業員積極活用仮説」は支持されなかった。 第二に、恒常的な短時間正社員制度は、人事戦略因子「女性社員の能力発揮を中心とする社員の仕事と生活の両立のための多様な働き方支援」が正に有意となったが、他の人事戦略因子は有意でなかったため、仮説1のみが支持された。 第三に、パートタイマー短時間正社員制度については、制度の有無による違いが明確であったのは人事戦略因子1のみであったことから、本論の研究課題1における「女性活用仮説」が支持された。しかし、人事戦略因子は有意でなく、本論の研究課題1の「正社員以外の従業員積極活用仮説」は支持されなかった。 第5章と第6章では、短時間正社員ルート別に短時間正社員制度を円滑に機能させるための人事管理や職場マネジメントを検証した。明らかになった点は以下のとおりである。 第一に、調査対象企業14社のうち6社で雇用形態の枠を超えて仕事内容や役割を基準に社員区分を見直している。こうした傾向は、パートタイマールートの短時間正社員制度を持つ企業やパートタイマー比率が高く、かつ正社員の職域にパートタイマーの職域が重複しっつある企業において顕著である。特に、パートタイマー短時間正社員制度の導入企業では、社員区分の見直しに伴い、「パートタイマー→短時間正社員→フルタイム正社員」のキャリア・ルートが機能するように人事管理を再構築する傾向がみられる。このことは、パートタイマー短時間正社員がフルタイム正社員への円滑な移行を媒介する中間形として形成されているといえ、本論の仮説が支持されたといえる。 第二に、雇用形態を超えて社員全体を再区分する企業では、職能等級と職務等級を併用して社員を格付けする傾向がみられる。短時間正社員を作り出すことによって、多様な人材をサポートできる人事管理の仕組みを構築しているといえる。 第三に、短時間正社員の賃金決定は、タイプに関わらずフルタイム正社員と同じ基準が適用され不就労時間分が減額される仕組みとなっている。 第四に、タイプにかかわらず、短時間正社員に対して評価制度と目標管理制度が適用されている。また、フルタイム正社員と同じ評価項目を適用する企業が主流であり、目標を設定し、それを基準に評価することが、短時間正社員制度を機能させるために必要な取り組みであるといえる。 第七に、短時間正社員の仕事内容は、正社員ルートについてはフルタイム正社員時と「変えない」とする企業が多い。正社員ルートの場合は、職能資格制度に基づき短時間正社員に業務が配分されることから、能力に見合う業務を引き続き担当することになる。一方、パートタイマールートにおいては、企業は短時間正社員に将来はフルタイム正社員になり、マネジメント業務を担うことを期待している。そのため、登用後は業務の難易度や責任度を高め、OJTを通して基幹人材に育成しようとする傾向がある。 第人に、短時間正社員制度を円滑に機能させるための職場マネジメントとして、(1)制度利用者が出た機会を職場全体の知識・スキルレベルを上げる機会、社員を多能工化する機会としてとらえること、(2)要員管理を徹底すること、(3)将来のフルタイム勤務を視野に入れて難易度の高い業務を配分することなどが重要であることが明らかになった。 第7章では、短時間正社員制度があり利用実績もある企業(取組み先進企業)の短時間正社員に対する人事管理の特徴について考察した。取組み先進企業の人事管理には以下のような特徴がみられた。 評価についてみると、一時的な短時間正社員に対しては「技能と職務遂行能力」「職務内容や責任の重さ」を、恒常的な短時間正社員とパートタイマー短時間正社員に対しては「労働時間の長さ」を重視する傾向がある。さらに、取組み先進企業では「評価制度がない」とする企業が少ないことから、短時閲正社員制度の円滑な運営には評価が不可欠であるといえる。 賃金決定方法についてみると、一時的な短時間正社員では、フルタイム正社員と同一基準を適用する企業が多く、恒常的な短時間正社員では、フルタイム正社員と同一基準を適用する企業と別基準を新たに設定する企業の両者があった。一方、パートタイマー短時間正社員では同一基準を適用しないケースが多い。以上の結果から、一時的な短時間正社員はフルタイム正社員と同じ雇用区分、パートタイマー短時間正社員は別区分、恒常的な短時間正社員は企業によって異なり統一した傾向が見られないという特徴を抽出できる。 目標管理についてみると、どのタイプでも短時間正社員に対して何らかの目標を設定していることが明らかになった。っまり、短時間正社員制度の円滑な運営には、目標管理が重要であるといえる。 勤務時間が短くなったことによる仕事内容の変化についてみると、タイプにかかわらず「仕事内容や責任をそのまま」とする傾向が強く、働き方を変えても仕事内容や責任は変えないというのが基本といえる。 さらに、第7章では短時間正社員制度の導入や利用実績の有無、上記の人事管理の適用が企業の経営パフォーマンスに与える影響についても分析している。その結果、以下のことが明らかになった。 第一に、短時間正社員制度の導入にっいては、一時的な短時間正社員制度は正社員全体の勤続年数を伸ばす効果があることがわかったが、それ以外のパフォーマンス指標に対しては有意な結果が得られなかった。また、他の短時間正社員制度についても有意な結果が得られなかった。ただし、一時的な短時間正社員制度および恒常的な短時間正社員制度の導入が労働生産性に有意でなかったということは、制度を導入しても短期的に労働生産性が下がることはないことを示している。 第二に、時間正社員制度の利用実績にっいては、一時的な短時間正社員制度は社員に利用されることによって、女性正社員だけでなく正社員全体の勤続年数に正の効果があることがわかった。恒常的な短時間正社員制度の利用は、女性正社員の勤続年数に対して正の効果がある。一方、パートタイマー短時間正社員制度の利用は女性正社員と正社員全体の勤続年数に対しては正の効果があるが、パートタイマーの勤続年数に対しては有意な結果が得られなかった。なお、労働生産性に対してはいずれのタイプも有意な結果が得られなかったが、このことは短時間正社員制度の利用者があっても労働生産性が下がることはないことを示している。 第三に、賃金決定方式の影響については、恒常的な短時間正社員では別建にすると正社員全体の勤続年数に正の効果があることが分かった。また、パートタイマー短時間正社員はフルタイム正社員と同一の基準で賃金を決定すると労働生産性が高まることが分かった。 第四に、賃金水準の影響については、パートタイマー短時間正社員の賃金がフルタイム正社員と同程度の場合、労働生産性が高まる可能性があるが、そのほかの短時間正社員については、どのパフォーマンス指標に対しても有意でないことが分かった。 第五に、目標管理制度の影響については、目標管理制度を適用することは恒常的な短時間正社員とパートタイマー短時間正社員の労働生産性を高めることがわかった。目標管理制度によって適正に評価することや短時間正社員に目標を持たせて仕事を与えることが短時間正社員制度を円滑に機能させるためには重要であるといえる。 最後に、仕事配分の変更の影響については、一時的な短時間正社員では、仕事内容の変更は女性正社員と正社員全体の勤続年数に対して負の効果を及ぼす。フルタイム勤務時と人事管理がほぼ変わらない一時的な短時間正社員に対しては、働き方が変わっても仕事内容を大きく変更しないことが人材の定着に効果的であるといえる。なお、他のパフォーマンス指標に対しては、いずれの短時間正社員においても有意な結果は得られなかった。 以上の結果から、わが国の短時間正社員の現状と、短時間正社員制度を機能させる要因として、以下のことを結論づけることができる。 短時間正社員制度の導入企業でも、導入している短時間正社員制度のタイプによって「コア人材」として育成したいと考える人材のターゲットが異なり、その違いが短時間正社員に対する人事管理のあり方に影響している。一時的な短時間正社員制度の導入企業は、社内で働く正社員が男女問わず能力を発揮できるよう働き方を柔軟にすることを重視している。したがって、その人事管理はフルタイム正社員と同じ人事管理を適用することになる。一方、恒常的な短時間正社員制度とパートタイマー短時間正社員制度の導入企業では、女性を制度活用の主な対象としているが、正社員にとどまらずパートタイマーや労働市場に再参入しようとする女性、定年後の高年齢者などの多様な労働者を想定している。したがって、その人事管理のあり方は、フルタイム正社員とは別に管理される傾向が強い。この結果は、これまで短時間正社員は正社員と正社員以外の従業員の中間にある一つの雇用区分であると考えられてきたが、短時間正社員には複数タイプがあり、それらは短時間正社員になる前の雇用区分の違いと、「(フルタイム)正社員」から離れる期間の長さによって規定されることを示すとともに、恒常的な短時間正社員制度はパートタイマー短時間正社員制度に収れんされていくと考えられる。そして、正社員以外の労働者、労働市場に再参入する労働者などの多様な働くニーズを持つ労働者は恒常的な短時間正社員制度やパートタイマー短時間正社員制度を活用して、良好な就労機会と待遇を得ながらキャリアアップを図ることが可能になると考えられる。こうした仕組みの構築は、若年者や高齢者雇用の雇用創出策としてのワークシェアリングの実現のきっかけにもなるだろう。さらに、こうした仕組みが機能するためには、それをサポートする人事管理が必要である。それは、個人が望めばフルタイム正社員まで段階的にキャリアアップできるように、もしくはフルタイム正社員と短時間正社員の間を何度も行き来できるように働き方の違いを超えて構築しておくことが重要である。特に、パートタイマー短時間正社員制度の導入企業では、正社員の女性だけでなくパートタイマー、再雇用の女性社員などの戦力化を図るために短時間正社員制度を導入する傾向がある。したがって、フルタイム正社員と短時間正社員を超えて社員を区分したうえで人事管理を1本化し、どんな働き方を選択しても社員がキャリアを開発できる状況を作ることが重要である。その際に重要なのが、 「目標管理制度」と「仕事の与え方」である。短時間正社員制度を機能させるためには、賃金水準などの待遇をフルタイム正社員と変わらないレベルにすること以上に、「目標管理制度」をタイプに関わらず短時間正社員に適用することと、正社員ルートの短時間正社員には仕事内容を変えず、パートタイマー短時間正社員には将来担当する(担当させたい)業務を見据えながら仕事内容のレベルを変えていくことが重要である。