著者
松浦 孝平 三村 正人 河原 達也
出版者
一般社団法人 言語処理学会
雑誌
自然言語処理 (ISSN:13407619)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.824-846, 2021 (Released:2021-09-15)
参考文献数
49

本稿では,アイヌ民話(ウウェペケㇾ)の音声認識に関する我々の取り組みについて述べる.まず,2 つの博物館から提供されたアイヌ語アーカイブのデータを元に,沙流方言を対象としたアイヌ語音声コーパスを構築した.次に,このコーパスを用いて注意機構モデルに基づく音声認識システムを構成し,音素・音節・ワードピース・単語の 4 つの認識単位について検討した.その結果,音節単位での音声認識精度が最も高くなることがわかり,話者クローズド条件と話者オープン条件のそれぞれについて,音素認識精度で 93.7% と 86.2%,単語認識精度で 78.3% と 61.4% を実現した.音声認識精度が話者オープン条件において大幅に低下する問題に対して,CycleGAN を用いた教師なし話者適応を提案した.これは,学習データ内の話者の音声から認識対象話者の音声への写像を CycleGAN に学習させ,学習データ内の音声を全て認識対象話者風の音声に変換するものである.本手法によって最大で相対 60.6% の音素誤り率の改善を得た.さらに,日本語とアイヌ語が混合した音声における言語識別についても検討を行い,音素認識と単語認識を用いた構成で一定の識別性能を達成できることを示した.