著者
林 塩
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.22-26, 1955-05-15

完全ということはどんな場合でも,容易にはあり得えないものであり,完全という言葉はうっかり用いられないものと思うが,現在使われている完全看護なるもの程不安定なものはないと思う。この完全看護という言葉があるために,病院の看護婦達は想像以上に心身の苦労をし,入院患者達は必要以上に不満を感じているし,又病院管理上にも割り切れない問題となつている。 もともと,この完全看護というのは,終戦後に出来た言葉で,病院の入院患者に附添をつけないで,病院自体の看護力を持つて療養上の世話をし始めた時にできた言葉である。戦前には一部の病院を除くと,日本国中の殆んどすべての病院では,家族附添又は職業的附添婦がついていなければ患者は入院ができない状態であつた。病院に雇われている看護婦は,入院患者の1入1人の看護には当らないで,病院の医師の助手であり,患者と附添者の着視或いは管理者であり,病室のハウスキーパーであり,又事務員でもあつた,随つて病院経営上からすれば誠に便利な存在であつたが,真の意味の看護をしていなかつたから,患者にとつては,病気の快復上にさほど価値はなかつたわけである。「1に看護2に藥」とは昔からの日本の諺であり,「病気が癒るのは,95%が看護の力で,後の5%が藥による。」