著者
林 緑子
出版者
日本映像学会
雑誌
映像学 (ISSN:02860279)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.39-59, 2022-02-25 (Released:2022-03-31)
参考文献数
27

本稿の目的は、1960年代後半に国内各地で複数発足したアニメーションサークルの特徴を、愛知県を中心に活動してきた東海アニメーションサークルの制作を事例として明らかにし、アニメーション文化史に位置付けることである。アニメーションが、娯楽・芸術・教育などの多様な分野にわたり日常化して久しい。このようなアニメーション文化を考えるとき、作家や産業関係者を育む土壌としてファンコミュニティは重要である。アニメーションに関する従来の研究や批評言説では、1970年代後半からのテレビアニメの人気隆盛に関連したファンコミュニティが主として「オタク」と呼ばれながら、もっぱらの注目を集めてきた。しかし、それ以前の1960年代末には既に、若者たちを中心とするアニメーションの文化サークル活動のネットワークが形成されている。先行研究では、現在のアニメーション文化にまで繋がるアニメーションサークルのネットワークの重要性や実際の制作が見過ごされてきたといえる。これに対して本稿では、東海アニメーションサークルを中心として、領域横断的ネットワーク、制作・受容・上映からなる総合的活動、文化サークルとしてのアニメーションサークルの歴史的意義の三つの観点から、アニメーションサークル初期の制作活動とネットワークについて考察する。それによりアニメーション文化史におけるアニメーションサークルの意義の一端を明らかにしたい。