著者
小川 萌日香 桃井 綾子
出版者
The Cetology Study Group of Japan
雑誌
日本セトロジー研究 (ISSN:18813445)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.15-23, 2023-11-20 (Released:2023-11-30)

視覚機能には種ごとに異なった特徴があり,生息環境に適応していく中で独自に進化してきた.動物が視覚的に物体を弁別する際,形状や明度を総合的に使用する.本研究では,ゼニガタアザラシ(Phoca vitulina)5個体に対して実験を行い,水陸両棲のアザラシは2つの情報を使ってどのように物体を弁別しているのか明らかにした.アザラシはまず,暗い灰色の丸型オブジェクト(正解のオブジェクト)と明るい灰色の三角型オブジェクトを見分けるトレーニングに参加した.その後,トレーニングで使用したオブジェクトに2つの新規オブジェクトを追加し,計4つのオブジェクトを使用して実験を行った.実験では,4つのうち2つのオブジェクトをアザラシに対して同時に呈示し,どちらのオブジェクトを選択するかを調べた.その結果,ゼニガタアザラシは明度よりも形状の情報を用いてオブジェクトを弁別していることが示唆された.形状を頼りに弁別するアザラシの物体認知のプロセスは,光の少ない水中環境に適応した結果である可能性がある.