著者
横田 雅実 桐野 靖子 小林 司 小林 雅文
出版者
日本歯科心身医学会
雑誌
日本歯科心身医学会雑誌 (ISSN:09136681)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.85-89, 2000

今回の症例は, 数か所の身体症状が病理学的に認められ, それにうつ状態がかさなっているものである.<BR>患者は, 1996年の初診時において78歳の女性である.彼女は20年以前から, 半身不随の夫の看病を続けており, 彼女自身も動脈硬化症, 高血圧, 狭心症, 脳梗塞等の身体症状に加えて, 不定愁訴, 悪夢, 不眠等で苦しんでいた.さらに娘の結婚による別居後, それらの症状に加えて, 自殺念慮, 発癌恐怖もおきてきた.かかりつけの内科医から, 末梢の治療薬に加えて, 抗不安薬も投与されて来たが, 充分な効果が得られないので投与量が増加されていた.<BR>彼女の下顎切歯 (21112) の金属冠は, 破損していたが, 近くの歯科医に不信感を持っているため, 7~8年放置したままで, 治療を受けようとしなかった.今般, 彼女の娘に連れられて筆者らを訪れた時にはdrowsinessのため歯科治療を行える状態ではなかった.筆者らはこのdrowsineSSは, 現在服用中のアルプラゾラムのためと考え, その服用を中止させ, その代わりに心身症性の臓器および循環障害に著効を示し, しかもアルプラゾラムよりも依存性の低いクロキサゾラムを処方した所, 小量投与にもかかわらず, 3週間の服用で身体症状を含めて精神症状に際だった改善が認められた.勿論この間に心身医学的療法として, 臨床心理学的アプローチによりカウンセリングを定期的に行った.約1か月経過時から口腔内治療を始めた.まず21112の破損金属冠を撤去し, 根管充填物を除去した.X線診査によれば, 21112の根尖端に病変はみられなかったので, ただちに根管充填を行い, その数日後にメタルコアーを合着し, 印象を採得した.翌月には金銀パラジウム裏装の硬質レジン前装冠を合着した.現在まで経過は良好である.<BR>クロキサゾラムの投与は1年間で中止した.それは患者が消化管障害の再発を訴えたためで, このため1997年10月から, 心身症性の消化管障害に著効を示し, 依存性の心配の少ないフルトプラゼパムの投与を開始し, 現在まで順調である.