著者
桑原 岳 桑原 和江 桑原 光一
出版者
動物臨床医学会
雑誌
動物臨床医学 (ISSN:13446991)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.65-68, 2013-06-20 (Released:2014-12-06)
参考文献数
7

症例は日本猫,16歳,避妊雌で進行性の呼吸困難を主訴に来院した。一般身体検査では喉頭部にマスが触知された。一般的に,猫の喉頭部腫瘍の予後は悪いといわれている。その理由として,腫瘍特異的な治療法が確立されていないこと,また全喉頭切除術により深刻な合併症を伴い得ることが挙げられる。本症例では永久気管切開による対症療法を実施し,喉頭部の腫瘍に対して部分切除生検を行った。病理学的検査を実施した結果,咽頭喉頭腺癌と診断された。症例は順調に麻酔から覚醒し,手術3日目に退院した。術後,飼い主による主観的なQOLは改善されたようであったが,手術54日目に嚥下困難による食欲廃絶が認められ,その後に死亡した。死亡直前まで呼吸状態は良好であった。咽頭喉頭腺癌により重度の呼吸器症状を呈する猫では,低侵襲な部分切除生検と永久気管切開術を実施して気道を確保することが,動物のQOLを改善し,なおかつ飼い主の満足度を得るための選択肢のひとつとなり得ることが示された。