著者
桜井 健夫
出版者
東京経済大学現代法学会
雑誌
現代法学 : 東京経済大学現代法学会誌 (ISSN:13459821)
巻号頁・発行日
no.30, pp.241-295, 2016-02

日本における仕組商品の規制について、米国、EU、英国の規制と比較して検討する。米国では、仕組商品などの複雑な金融商品の普及を受けて、FINRAが、業者の商品熟知義務を含めた合理的根拠適合性(商品適合性)を適合性原則に追加し(2012年)、SECが、業者に対し発行者評価額の開示を粘り強く要請して(2012年〜2013 年)、2013 年以降、仕組商品の目論見書の表紙に発行者評価額を記載させている。このような対応にもかかわらず、その後、仕組商品の販売高がさらに増加しているので、2015 年になって、SEC は、投資者に対し発行者評価額が目論見書に開示されているので注目するよう広報し、業界に対しては顧客が構造やリスクを理解しないまま取得している現状に疑問を投げかけている。EUでは、IOSCOの報告書「複雑な金融商品の販売に関する適合性要件」、「リテール向け仕組商品に対する規制」(いずれも2013 年)を踏まえたESMA の仕組商品意見書(2014 年)が出され、引き続きMiFID II、MiFIR が制定された(2014年)。仕組商品関係では、組成段階での商品適合性、コスト開示義務、不合理な商品等に対する規制当局による販売停止権限などが規定されている。英国では、2012 年にFSA が仕組債の最終ガイダンスを公表し、2013 年には、FSA を引き継いだFCA が、仕組商品を勧誘する場合の注意点を業界に通知した。それでも、仕組預金等の販売が増加しているので、FCA は、2014 年には仕組預金等に関する定性的調査を外注し、2015 年には仕組預金に関する行動経済学的調査を行った。これらの調査により、消費者は仕組預金のリターンを過大評価すること、そのため、定期預金の方が有利であっても仕組預金を選ぶ傾向があることが裏付けられた。この過大評価による選択ミスは、リターン見込みの数値的開示等の定量的開示をすれば多少改善するものの、限界がある。2015 年、FCA は業界に対して、リターン見込み・元本欠損リスクの程度の数値的開示を求め、組成販売しようとする仕組商品が合理的な価値を持つことを証明することを求めている。日本では、金融庁が2010 年にデリバティブに関する監督指針の一部を仕組債にも適用することとし、2011 年には日本証券業協会が合理的根拠適合性を導入した。2012年には金融庁が通貨選択型投信に関する監督指針を改正し、2013年には日本証券業協会が自主規制規則に高齢者への勧誘に関する条項を追加した。2015年、金融庁は手数料透明性の向上を平成27年度行政方針に記載した。