著者
宮澤 一 内田 訓 大槻 穣治 森田 健 森田 良治 松山 優子 畑山 美佐子
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【はじめに】プロボクシングは両拳によって相手の顔面、腹部の急所を狙ってダメージを競い合うコンタクトスポーツであり、その競技特性上、外傷・障害は避けられず、時に生命に危険を及ぼすことさえ有り得る。平成7年より日本ボクシングコミッション(以下JBC)認定のプロボクシングジムから要請を受けサポート活動を開始し、平成10年からはチーフセコンド(試合中、一人だけリングに入ることが許され、選手に戦略や指示を与える係)およびカットマン(試合中、選手の受けた外傷の止血や応急処置を行う係)として試合に帯同する機会を得た。今回、日本タイトルマッチ5回を含む10年間の活動をまとめ、今後の課題を検討する。<BR>【対象】平成10年から平成19年の10年間で、JBC認定ジム所属のプロボクサー25名(18歳~35歳)による全156試合。<BR>【結果】156試合中97試合(62.2%)で129件の外傷・傷害が発生した。受傷機転からグループ分類すると頭部顔面の裂傷・外傷群56件(43.4%)、中手骨頭・手指打撲群53件(41.1%)、脳損傷・脳震盪群14件(10.9%)、その他障害は6件(4.6%)であった。対応としてはアイシング75件、テーピング58件、止血処置38件、医療機関に同行5件、徒手療法3件、その他3件であった。 <BR>【考察】打撃を顔面に受けることや頭部同士が接触することにより、頭部顔面の裂傷・腫脹などの外傷の発生は競技特性からも避けられず、最も多い結果であった。小さな裂傷であれば1分間のインターバルで止血処置をして試合再開となるが、危険と判断されるレベルに達した場合、試合は中止される。短時間での適切な止血処置能力や腫脹を軽減させる技術力向上も要求されるが、ダメージが大きい場合は選手の将来を考えて試合中止を申し出る判断も必要と考える。<BR>また打撃を与える拳のダメージも同様に多く、中手骨頭骨折で引退となったケースもあった。試合前に予防としてのバンデージを両拳に巻くことがルールで認められているが、これまでの伝統的な方法にPTの知識を生かして、より衝撃を軽減し、拳や関節を保護できるような方法を考案していきたい。<BR>また全体の約10%は脳自体のダメージと考えられるもので、試合直後に開頭手術を要した1件(現在は社会復帰)を含め医療機関に直行したケースは5件(うち救急車要請2件)であった。試合後の選手の状態には細心の注意を払い、状態悪化時の初期対応についてもスムーズに実施できるよう手順が確立されていることが必要とされる。近年、安全管理面から早めのストップが提唱されているものの実際に死亡事故も発生している。外傷障害に対する応急処置や知識の啓蒙だけでなく、練習過程から試合後のフォローまでの総合的なコンディショニング管理をとおして、PTの視点から出来ることを今後も模索していきたいと考える。 <BR><BR><BR>